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遥かなる彼方からの贈り物  作者: 名も無き人
第4章 エイリアン大樹
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(2) ベスの憂慮

ベスの勝利を決定的にした要素は

米国民の特にネオコンの勢力が根強い

カソリックと大規模農業が盛んな州で

環境に対する関心が高まったからだった。


それほどに酷い飢饉だった。

農民達はこれほど無力感を感じたことがなかった。


幸い、食料は輸入され

飢餓が発生する様な大きな混乱は避けられた。


そしてベスが大統領に就任した為

リベラル派の多くの人々は

世の中が良い方向に向かったと信じた。


しかし、ベス自身は今回の干ばつは

結果的に非常に幸運であったと思っていた。


世界各国の

他の主要な穀物生産地域が無事だったからである。


一方では有力な科学者の幾人かが

米国で発生した様な大干ばつや大水害

それに類似する大きな農業被害

数年のうちに、全世界で同時多発的に発生する可能性を

改めて指摘し始めていたのである。


地球環境の変化は

徐々にではあるが

極度に危険な兆候を現し始めていた。


少なくとも、地球環境は

京都議定書の様な

各国の利害を調整した取り決めに従って

変化している訳ではなかった。


地球環境は、国家間にとっては取引の材料だが

肝心な「地球環境そのものを相手に」

取引をする事はできないのである。


人類はその余りに簡単で

かつ明白な事実を忘れていた。


『人類は自然を、甘く見過ぎた・・・』


多くの知識人と同様に

ベスは最近強くそう思う様になってきた。


当たり前の事だが

生物の生命維持の基本は、水と食料である。

人類でもこの原則に変わりは無い。


人類が他と違うのは

他の生物の多くは環境が変われば生きられなくなるが

人類は衣服や住居や冷暖房で

それを解決する能力を持っている所である。


しかしこれ程に優れた人類であっても

未だ食料だけは

基本的に太陽の光合成で成長する

植物や植物プランクトンに

その大元を頼っている。


要するに「お天道様頼り」なのである。


その点は、昆虫もサルも人間も変わりはない。


もし気候のバランスが悪い形で崩れれば

全世界的な大規模な食糧不足が容易に発生する。


その現実的な危険性に

人類全体が本格的に気付いていないのだった。


開発途上や内乱の国での食料危機は

これまでも頻繁に起こってきた。


しかしそれは飽くまで局地的に起こるものであった。

そして多くの人々が

餓死と言う

筆舌に尽くし難い苦しみの中で死んでいった。


食糧不足が起きれば

弱いものから死が訪れる。


しかし、皮肉な事に

これらの国や民そのものが弱い存在であった。


逆を言えば

弱い存在であるから飢餓に襲われたのである。


口うるさい博愛主義者は怒るかも知れないが

現実として弱い人々が幾ら死のうが

世界を揺るがす様な混乱は起きないのである。


そして、心篤いボランティア達の

献身的な活動が行われている様子を

テレビや雑誌で眺める事が

「弱者の飢餓」に対する

人類の大部分が経験してきたこれまでの行動だった。


しかし、ベスが心配しているのは

人類と言う「種全体に及ぶ食料危機」だった。


そして「種の食料危機」を

少なくとも有史以降においては

人類はまだ一度も経験をしていないのである。


もし全世界の主要な穀物生産地域で

同時多発的に大規模な農業被害が発生したら

・・・ベスは震撼とする気がした。


飢餓は人間を狂わせる。

食料が無くなれば

人間は共食いも辞さなくなる。


誰が奇麗事を言おうが、これは証明済みの事実である。


そして、この狂乱に対しては

神や宗教も、全く無力である。


食料が無くなれば人間は狂う。


一部の科学者達が

人間を強制的に狂わせるもの

それは種の飢餓と主張していた。


その結果

各国で同時多発的で大規模な

内乱が発生する可能性が高いと言うのである。


多少でも余剰の食料を持つ者がいても

それを分かち合う事はない。


もしお金であれば分け与えるものはいる。

しかし食料は分けないと言う事である。


つまり生命の危険は

お金に優先する。


分かり切った、当たり前の事だった。


問題なのは、分け与えられない側である。


もしお金が無くても

無いものは仕方がないと諦められる。


しかし、食料の場合はそうはならない。


その結果、暴力を使って奪い合う事だけが

唯一の行動の方向となる。


人類を何度も滅ぼすだけの核を持つ国

つまり米国やロシア

或いはフランスやイギリスや中国で

核兵器を持った後に限れば

これまでのところは本格的な内乱が起こった事はない。


だがもし内乱が起これば

その内乱は

更に大規模な戦争を引き起こす

最大の要素となる。


そして現実にその食料危機が

何とこの米国で起こりかけたのである。


この事態は間違いなく繰り返される筈である。


先日の昼食会の席で

著名な科学者が冗談交じりで言った言葉が

ベスの脳裏に蘇った。


「太古の昔、植物や植物プランクトンによって

それこそ何億年も掛かって閉じ込められたCO2は

石炭や石油や天然ガスとなって

何億年もの間、安全に、静かに

地下に閉じ込められてきました。

それを、人類は僅かな期間で

再放出しようとしています。

人類にとって真のパンドラの箱は

この化石燃料だったのかも知れません。

その箱を我々は今大きく空け

そしてそれが飛んでもない悪魔だと気付いて

慌てて閉めようとしていますが

どうでしょう?

閉められますかな?」


大統領の執務用の机に座り

重なった書類に機械的にサインを続けながら

彼女はそんな事をぼんやりと考えていた。


彼女がふと気付き、目を上げると

そこにはいつの間にか一人の男が立っていた。

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