(11) 大友香織の確信
テレビ局のインタビューに応じる事は
ドキドキするけど
ある意味楽しそうだと
大友香織は予ねてから思っていた。
幼稚園の保育士と言う職業上
そんな機会は多くない。
ペラペラと高い声で
口滑らかに喋る女性レポーターが
こちらに近づいてくるのを眺めながら
大友香織はインタビューに答える為に
事態を思い返していた。
それは
「大樹ちゃんは確かに消えた」
と言う厄介な記憶を伴った筋書きだった。
キーッと言う急ブレーキの音の方を見ると
トラックがスピンしなが
こちらに向かって突っ込んで来る。
その瞬間、香織は思わず園児達を見た。
園児達は全員トラックに気付いた状態にあり
その方向を向いているが見えた。
が、その中の大樹と思われる園児の姿が
香織が見ているその前で
突然ふっと消えたのである。
そしてトラックの方に目を戻した香織は
実に不思議な光景を見る事となった。
トラックが回りながら
いきなり10メートル程の高さにジャンプしたのだった。
そのまま見上げて香織が目で追う前で
トラックは空中でゆっくりと移動し
公園のトイレの上に舞い降りた。
夢ではない、紛れも無い現実の光景だった。
少しの間、トラックを呆然と眺めた後
香織はハッと気付いた状態で
肝心の園児達を見た。
全員無事の様である。
そして園児達の目が
公衆トイレの上のトラックに釘付けになっている。
その列に大樹がどこからともなく現れ
歩み寄り、加わった。
香織はその光景もはっきり見たのだった。
藤井大樹に関しては
それからも何回か大友香織が不思議に思う事があった。
中でも紛れもなく、はっきりと不思議を見た気がしたのは
香織が園児達にお遊戯を教えていた時だった。
「せんせい、おしっこ」
と手を上げ
突然、大樹が教室を出て行こうとした。
「大樹ちゃん、待ちなさい」
と香織が言ったが
大樹はそのまま教室を出て行こうとする。
余程おしっこが漏れそうらしい。
しかし、香織は他の観点から
大樹の後を追った。
そして、廊下に出て
大樹がトイレの方向に歩いて行くのを
観ようと思った時
それは起こったのだった。
そこには誰もいなかった。
突然大樹が消えたのである。
本能的に香織は廊下の反対側を見た。
そして、そこに水平になって行く大樹の脚を見た。
廊下の床から1.5メートル程の高さに
うつ伏せになった状態の幼児の脚だけが
ぽっかり浮いていたのである。
それはほんの0.5秒程の時間の出来事
脚は直ぐに消えた。
香織は思わずへたり込んでしまった。
それから大樹を捜索したが
トイレの中にも、どこにも見つからなかった。
しばらくして仲間の保育士も加わって捜したが見つからない。
30分程して母親に知らせる事を決意した頃になって
突然大樹が戻ってきた。
パニックになりかけていた保育士達が幾ら訊いても
大樹は、トイレに行っていたとしか答えない。
全く釈然としない出来事だったが
幼児が真顔で答える姿に、暴力的な事もできないし
事故も起こっていないのである。
その出来事を契機に
大友香織の藤井大樹に対する疑問は
いよいよ深まる事となった。
しかし、香織がいくら注意して見ても
結局何一つ分からなかったし
それに具体的に何か悪い出来事が起こる訳でもなかった。




