(7) 何をするのか
大樹は考えた。
大樹は既に
追い詰められ始めていた。
現実感が襲ってきたのである。
200年も続いた夢の世界から
本格的に引き剥がされ始めた。
それは恐怖以外の何ものでもなかった。
そしてその恐怖から逃れるように
大樹は考えた。
圧倒的な勢いで押し寄せる
恐怖に押し流される前に
縋る何かが欲しかったのである。
テレビで喋って、世界中を説得すればいい。
世界中のテレビで語りかけるのである。
色々な国の言葉は喋れる。
しかし、テレビで喋る為には
テレビを放映している人間を説得する必要がある。
その前にその責任者も説得しなければならない。
それに、テレビは
観る人間達の視聴率を価値観として存在している。
だから、大樹が喋る内容が
面白くないと思われれば
或いは繰り返されて多少でも飽きが来たら
たちまち大樹が話す機会は減るだろう。
それに多くの国のテレビは
国家の政策と結びついている。
どう考えても大樹が喋る内容は
好ましい内容ではないだろう。
それから大樹は気付いた。
テレビで喋って一体何になるのだ。
人類がどうすれば良いかを導く事ができるのか。
いやそんな事はない筈である。
どうしてもテレビで喋りたいなら
強引に電波ジャックする方法だってあり得る。
でも、そんな事を何の為にやるのか。
人類はただ、ただ混乱して
右往左往するだけに違いない。
だめだ、テレビで喋っても何もならない。
大樹はそう思った。
だめだ、だめだ、だめだ
インターネットも同様であろう。
メディアはメディアに過ぎない。
ネット上で政治勢力となる方法もあるが
それは部分的な効果にとどまるであろう。
大樹は全世界を動かさなければならないのである。
その為には
全世界が動く行動をしなければならない。
その他にも大きな問題があった。
自分は幼児である。
幾ら優れた能力を持っていても
人間にとって幼児は幼児であり
庇護すべき可弱く
無能な存在なのである。
この姿をした自分が
全世界のリーダーシップを握る事は難しい。
一体どうしたら良いのだろう。
大樹は考えた。
限界だった。
これ以上考える事はできないと思った。
恐怖に沈み始めた。
とその時
微かな光のようなアイデアが浮かんだ
意味の無い単純なものだった。
だが思いついてみると、パッと拡がった。
『そうだ、エイリアンになろう。』
大樹はそう決心した。
大樹がエイリアンであると言うのは
あながち間違いではない筈である。
大樹は地求人と言うよりデジャ人である。
知識だって記憶だって
デジャの知識や記憶の方が多くを占めている。
実質は200年以上生きてきた人生の中で
地球人であったのは
たったの5年だけ
後はずっとデジャ人として生きてきた。
そうだ大樹はエイリアンみたいなものなのだ。
それが地球の人間に訴え掛けるのに
最も都合が良い気がした。
その発想に行き着くと
不思議な事にほんの少しだけ気が楽になった。
そして、いろいろなアイデアが浮かんできてワクワクし始めた。
それに地球人ではない大樹は
責任もない存在である気がした。
ただ、ただ人類を救うだけの立場になる。
ヒーローなのだ。
だから思い切り活躍すれば良いのだ。
姿だって大人に変えれば良い。
何せエイリアンなんだから。
『そうだ、僕はエイリアンになったんだ。』
しかしきちんとした思考が続いたのはそこまでだった。
恐怖の本流が押し寄せ、大樹の心をズタズタに切り裂き始めた。
そしてゾッとするような心の苦しみが始まった。




