(4) タイムラグ
デジャ人は
大樹に行なった大手術によって
超人のような知識を埋め込みながら
その心には、一切の手を加えなかった。
それは人道主義にも似た配慮に思えたが
根本的に違っていた。
要するに、デジャ人は
大樹ただ一人に
地球の運命の全てを任せたのである。
本来であれば、大樹の身も心も
全てをロボットの様に作り変えるべきだった。
少なくとも大樹はそう思った。
そしてそのロボット化した優れた存在が
最適な戦略を冷徹に実行するのが
最も成功率の高い方法であった筈である。
しかし、デジャ人はそれを行わなかった。
大樹にはその理由が教えられていた。
理由は至って簡単なものであった。
「デジャ人がデジャ人の意志だけで助けるのであれば
それは神の摂理に逆らう」
と言うものである。
何と理由は神だった。
更に、これには更に根本的な思想的背景があった。
それは
文明を持つレベルに達した生物の
少なくとも95%以上は滅亡する
と言う法則をデジャ人は固く信じていたからである。
地球、つまり人類にも
その法則は当てはまる筈であった。
実際、大樹は
人類がまもなく現実に滅ぶ可能性が高い事を
デジャの科学に従った
客観的な分析により
極めて現実的に
そして正確に把握していた。
滅亡の基本的な原因は
他でもないテレビや新聞で報道されている
環境問題だった。
太古の昔より
一億年に達する気の遠くなる程の時間をかけて
植物がこつこつと地下に封印した二酸化炭素
つまり石油や石炭を
人類は僅か300年に満たない間に
そのうちのかなりの量を
大気に戻してしまっていた。
地球の平均気温が上昇するのは当たり前の事である。
しかし気温が上昇し天候が大きく変化しても
それだけで人類が滅亡する可能性は低い。
問題は別にあった。
そのキーワードは3つあった。
一つは食料
そして二つ目は
人類は自殺できる種であると言う事実。
それに三つ目、それはタイムラグである。
三つ目のタイムラグとは
例えば
全世界の人類が
たった今
即座にCO2の放出を全て停止したとしても
その効果が実際に現れるのは
これから30年以上経過した後
と言うことである。
そして、このタイムラグこそが
人類にとって最も危険な要素なのである。




