(3) 五歳のままで達人となること
大樹に与えられた情報は
単なる記憶とは根本的に異なり
具体的に機能する知識として
埋め込まれていた。
単なる知識と
機能する知識との違いは大きい。
例えば、自転車の乗り方を
本で知識として記憶するのと
実際に乗りながら身体で習得するのとは
全く違う。
要するに、本で自転車の乗り方を記憶しても
実際に乗る事はできない。
つまりそれは殆ど何の役にも立たない知識なのである。
しかし大樹に埋め込まれた知識は、
全て「実際に自転車に乗る」ことができる性質の
運動中枢や他のあらゆる神経ネットワークを包括する
完璧な知識体系だった。
しかもその知識の範囲は広範だった。
例えば大樹は
地球上で電波やネットに乗る事のある
全ての言語をマスターしていた。
その中には、未開と言われる民族の
文字のない言語までが含まれていた。
そして例えば、大樹は
5歳にして格闘技の達人の域にあった。
その格闘技は、デジャの古武道として発達したもので
空手と合気道が混合した様な
非常に合理的なものであった。
よって大樹は武道の達でもあった。
しかし一方で
自分の5歳の身体で戦える限界も理解しており
緊急の時に
どの様な活路を捜して、戦うべきかも理解していた。
更に、格闘技だけでなく
あらゆるタイプの武器にも通じていたし
素人からプロに至る戦闘集団をコントロールする事
つまり軍事的な知識
東洋の古い言葉で表現すれば
兵法にも通じていたのである。
その他あらゆる工業的な或いは科学技術的な知識
天文学的な知識
他の惑星系の生命体についての知識
更にその滅亡の歴史に至る広範な物事を理解していた。
その範囲は更に
デジャの極めて進化した
音楽や絵画等の画像芸術の知識に及んでいた。
大樹は超人的な能力を身につけたのである。
しかし、一方で、大樹は生身の人間である。
つまり、能力は備わっても
心がそれに適合していなかったのである。
「サンダル」は
大樹の脳に対して施した驚くべき生体手術の中で
大樹自身が彼の心をコントロールする部分への手術を
一切行わなかった。
要するに大樹は
全く自由意志を持った存在のままだった。




