危険だから
日が暮れる頃には、集落で助けられる者の救助はほぼ終わっていた。
死者もいた。
全員を助けることはできなかった。
助けられた者と、助けられなかった者の間に明確な理由があったわけではない。瓦礫の落ち方。いた場所。発見までの時間。その程度の差だった。
カイは遺体へ布を掛ける村人たちを少し離れた場所から見ていた。
若い護衛が隣へ来る。
「気にしてる?」
「何を」
「助けられなかった人」
「気にしても生き返らない」
「そうじゃなくて」
カイはしばらく答えなかった。
「気にしないようになったら、それはそれで終わりだと思ってる」
それだけ言った。
灰銀色の獣は焚き火の外側にいた。
火へ近づくのを嫌うわけではないが、人間の輪へ入ろうともしない。
住民たちはまだ距離を取っている。
その時、一人の男が弓を持って立ち上がった。
昼間、獣を殺すべきだと言っていた男だった。
「やっぱり今のうちだ」
カイが顔を上げる。
「何が」
「殺す」
男が獣を指す。
「町まで連れていけば被害が出る。あの爪を見ただろ」
「見た」
「なら分かるはずだ」
「危険なのは分かる」
「なら」
男が弓を構えようとする。
カイが立つ。
間へ入った。
「やめろ」
「なんでだ!」
「今、誰かを襲ったか?」
「してからじゃ遅い!」
「そうだな」
男が逆に戸惑う。
「だったら」
「だから殺していいとはならない」
「何が違う!」
カイは少し考えた。
軍にいた頃、似た会話をした記憶があった。
敵になるかもしれない。
裏切るかもしれない。
攻撃される前に潰せ。
戦場なら、その判断が正しいこともある。
それで生き残った経験だってある。
「危険だから監視する。危険だから近づけない。それは分かる」
カイは獣を見る。
「でも危険かもしれないだけで殺すなら、俺もお前も大して安全じゃない」
「俺たちは人間だ」
「人間なら安全か?」
男が言葉に詰まった。
戦争が終わってまだ三週間である。
人間がどれほど人間を殺せるか、この場にいる全員が知っていた。
「こいつが誰かを襲ったら」
カイは続ける。
「その時は俺が止める」
「殺すのか?」
「必要なら」
灰銀色の獣の耳が動いた。
言葉を理解したのかもしれない。
ただしカイは言葉を変えなかった。
守ると約束するつもりもない。
無害だと保証することもできない。
「それでも今は何もしてない」
カイは男の弓を見る。
「だから今殺す理由にはならない」
男は長く黙った。
最後には弓を下ろした。
「責任取れるのか」
「全部は無理だ」
「無責任だな」
「知ってる」
カイはそう答えた。
責任を取ると言い切る方が簡単だったかもしれない。
だが、未知の召喚生命について何が起きても責任を取れるなどと言えるほど、カイは自分を信用していなかった。
その夜、カイは焚き火から少し離れた場所へ座った。
獣はさらに少し離れて伏せている。
「寝ないのか?」
当然答えはない。
「俺もお前を信用してないからな」
金色の瞳が開く。
「悪く思うな」
獣は目を閉じる。
カイも背中を木へ預けた。
互いに信用していない。
その程度の距離が、今はちょうどよかった。




