もう一つの落とし前、「時がある」
俺がエルン村から王都へ向かう道の途中で襲ってきた、闇組織『暗闇の牙』。
存在はそこそこ知られているが、組織にアクセスできる者は限られているようだ。
俺が王都に到着してから、いろいろと当たってみたが、なかなか糸口すらも見つけられなかった。
王都に来たから1ヶ月が経った頃、意外なルートで『暗闇の牙』の糸口が見つかった。
下町の酒場での雑談がきっかけだった。
酒場の常連客の1人で、金が入ると娼館に通う、いわゆる風俗狂いで有名な男がいた。
いつも金欠なので、値段が安めの酒場でも少しずつしか頼まないが、ある意味で男らしい人物として、また娼館の情報通として、他の客によく奢られていた。
その男の定番のネタ『娼婦が嫌がる客』シリーズは、話し出すとその男の周りに人が集まるほどだった。
話自体が面白いので、俺もその話に耳を傾けていたが、その話に出てくる1人の男の特徴が、「俺はあの組織に属しているんだぜ」と、組織の名前は直接出さずに仄めかすことだった。
断片的ながらそれなりにリアルな組織の情報を語って、娼婦を脅して支払う金額以上のサービスをさせていたらしい。
その情報を組み合わせて浮き上がるのが、『暗闇の牙』のようなのだ。
娼婦か・・・ちょっと盲点だったな。
寝物語で口を滑らすのは定番だし、情報が集まりそうな場所だよな。
そちら方面でも情報網を築いておきたいところだ。
娼館通いの男に酒を奢り、しこたま呑ませて、『暗闇の牙』に所属、少なくとも関係がありそうな男が通う娼館の名前を聞き出した。
周りに怪しまれないように他の情報も合わせていろいろ聞いていたら、「アルトも興味あんのか!」「お前も好きだなー」と、囃し立てられた。
・・・まあいいか、娼館に興味があると思われても。
情報の入手先として興味があるのは本当だしな。
アルトと統合した有仁は、それなりに女遊びはしていたが風俗はほとんど行かなかった。
プライベートで遊び相手にそれほど困らなかったし、金で買う関係にそれほど興味を持てなかったからだ。
この世界では、娼館通いして『娼婦に好かれる客』になって情報網を築くのもアリかもしれないな。
娼婦通いの男から聞き出した娼館『雌猫倶楽部』で、男の名前を出したうえで情報料を払い、『暗闇の牙』の構成員らしき者の情報を聞き出せた。
その娼館の受付にも嫌われているようで、あっさりと話してくれた。
そいつが主導するヤマ(案件)が終わって稼いでから来店すると行っていたそうだ。
2日後がその来店予定らしい。
その話をしながら、受付は「大して金を出すわけでもねーのに偉そうなんだよ」と悪態をついていた。
この店の常連かもしれないが、その常連が1人消えても問題なさそうだな。
なお、娼館では「ガキが来るには早いんだよ!」的な対応は一切なかった。
かなり年齢が上だと見られていたようだ。
娼館で聞き込みをした2日後。
まだ日が落ちきっていない夕方に、聞いた通りの人相の男が娼館に向かっているところを見つけた。
細い通りにその男が入った所で、他の誰も見ていないことを確認し、喉を潰し、両手足を砕いた上でその男を持ち上げ、予め調べていた空き家に放り込んだ。
風魔術で空き家から声が漏れないようにした上で、その男の喉を身体術で治療する。
大きな悲鳴を上げてのたうち回るが、髪を掴んで尋ねる。
「お前は『暗闇の牙』の者だな?」
「お前、自分が何しているか分かってんのか!?」
右腕を身体術で治療して、また砕く。
また大きな悲鳴を上げ、のたうち回ろうとして髪がブチブチっと何本か千切れた。
「お前は『暗闇の牙』の者だな?」
「お前・・・」
左足を身体術で治療して、また砕く。
「お前は『暗闇の牙』の者だな?」
「・・・そうだ」
精神魔術も行使して、その男から情報を搾り取った。
その男は幹部ではないものの、何人かを従えるチームリーダーのような地位にはあるようだ。
『暗闇の牙』の拠点、幹部の所在、最近の活動など、聞けるだけのことを聞いた後に首を折って殺した。
さあ、やることがいっぱいだ。
手早く進めようか。
その日のうちに、王都内の拠点を6つ潰し、幹部4人とトップとナンバー2を殺し、構成員も一通り仕留めた。
拠点が合っているかを調べ、3人ほど攫い、情報を聞き出して幹部を残して殺し、幹部から情報を抜いて殺す。
その繰り返しだった。
その中で、王都に来てから開発した、新しい身体術の使い方も試せた。
拷問の手段としても、死刑よりも辛い刑罰の手段としても有用そうだ。
クズが相手だと人体実験を躊躇なく実行できるのがいいな。
金品の類には手を付けなかったが、契約書や帳簿などは一通り入手した。
政府の者が調べても、貴族家に握りつぶされそうだからな。
貴族の当主の署名が入った契約書もある。
今の俺がこれを持って政府に訴え出ても、筆跡鑑定などをやってもらえるはずもなく、没収されて終わりだろう。
何事にも『時がある』
『時がある』の原点は旧約聖書だったかな?
「・・・求めるに時があり、失うに時はある。保つに時があり、放つに時がある。・・・」
という教訓だ。
何事も、何かを行うにはそれに適した『時がある』。
今じゃない。
これらの証拠が必要となる、その『時』を待つのみだ。
運よく拠点にいなかった下っ端は残っているかもしれないが、幹部はトップを含めて全て処分した。
『暗闇の牙』は組織としてはもう終わりだろう。
当事者以外には姿を見られずに全て実行できた。
まあ、利害関係のある者、ローゼルスタッド侯爵家などは俺に疑いを持つかもしれないが、表立っては何もできないだろう。
後は、娼館の受付に『念押し』をするくらいか。
処世術に長けてそうな男だったし、俺のやったことを知れば、話を漏らすことはほぼないと思われる。
あの娼館の受付とは長い付き合いになりそうだな。
グローフィル子爵には『暗闇の牙』を処分したことを伝言しておいた。
また自分が狙われるかもしれないと心配していただろうしな。
『暗闇の牙』を知っている者の間では『暗闇の牙』が崩壊したことが出回るだろうし、俺以外からも耳に入ればより安心できるだろう。
また一つ、王都で落とし前をつけることができたな。
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