新たな出会い③
門のそばの壁を避けて集落に入っていくと、上空からも見えた家が建っているのが見える。
家の形はシンプルで、柱と壁、扉と屋根、全て木で構成されているようだ。
屋根は片流れで、扉の方に向かって下に傾いた形だ。
外には誰1人いない。
門番の警戒の声で避難したんだろう。
『獲物を狩ってきたぞーーーー! 皆のもの、食事の用意を頼む! 私はこれから稀なる客人の相手をするのでな!』
集落の長が大きな声で集落中に伝え、同時にそれを思念で俺に伝えてくる。
自分の出す声と思念の内容を変えることは、特に先程初めて思念を使った者には不可能だろう。
それを利用して、俺に疑わせることなく集落の人間に伝えた、ということだろう。
この集落の長、頭が回る上に考えが柔軟だな。
それぞれの家の中でざわつき始める気配を感じながら、集落の長についていく。
広場のようなところの端の、おそらく解体場になっているところで、魔獣を運んでいた4人はそこで下ろした。
魔獣を運んでいなかった2人に集落の長が声をかけ、その2人も魔獣の解体に加わるようだ。
集落の長が1人で歩き出したので、俺はその後ろをついていく。
1人で俺を相手にするのか。
なかなか豪胆だな。
誰がいてもあまり戦力差的には変わりがないと、門の前のやり取りで気づいたからか。
いきなり俺にかかってきたようなヤツがいると話の邪魔になるからかもしれないが。
いわゆる切妻屋根というのか、扉のある正面に対して左右に両流れになった屋根の家が長の家のようだった。
他の家に比べてもかなり大きいな。
長が扉を開けて中にはいる。
俺も続いて入ると、長が扉を締める。
窓が解放されていて、それなりに家の中も明るい。
虫も魔獣化するからか、小さい虫が窓から入ってくるということがないから、その点だけは楽でいいな。
扉から入ったところが土間になっていて、一段上がって板の間が続いている。
特に部屋の区切りなどはなく、何というか、体育館みたいだな。
長が桶に入った水で足を洗い、桶の傍にあった布で足を拭いて板の間に上がった。
俺は靴を脱いで板の間に上がる。
長はそのまま板の間を進んで細々と物が置いてあるスペースに向かっている。
長がそのスペースで立ち止まり、座布団のような厚みのある毛皮でできたものを2つ取り出し、1つの上に胡座をかいて座る。
俺の分も用意されたと考えて、もう1つの上に俺も同じように座る。
『それで・・・何を知りたいのかな』
『いろいろと。まずは互いの種族的な違いについては知っておきたいな』
『ふむ。それは有益だな』
話を始めようとして、長が思念を使いながら茶を入れようとしていた。
水瓶から柄杓のようなもので水を取ってポットのようなものに入れ、囲炉裏のようなところに吊り下げる。
その下にある炭のようなものに火打ち石のようなもので火を付けようとしている。
『俺がつけよう』
俺が火魔術で炭のようなものに火をつけると、長は少し驚いて『助かるよ』と告げてきた。
茶というか、ハーブティーのようなものをもらい、喉を潤しながら、色々と話した。
本当に分からないことだらけなので、互いに手探りだったが、お互いがどういう種族なのか、どういう暮らしをしているのか、ある程度理解し合えたと思う。
この集落の種族は、身体術を使え、魔術は使えないようだ。
近隣の魔獣を狩り、樹木や草木から食用できるものを採集して暮らしているらしい。
魔獣の素材や樹木や草木の素材で物づくりをして日用品を揃えているとのことだった。
『それで、近くの種族とはどのような交流をしているんだ?』
話が一段落して互いに一息ついたところで、俺が尋ねると、長が動揺しながら『なぜ?』と返してきた。
『俺に突っかかってきたヤツの持っていた槍の穂先、あれは金属を加工したものだった。それに、俺がこの家に上がった時に靴を脱いだ時、魔術で火をつけた時も対して驚いていないようだったからな』
『なるほどな。だが、なぜ「近く」だと?』
『門の前で、大森林の外を誰も想像することができないような話をしていただろう? 人間からすると、この場所は俺以外でもいつか誰かが辿り着きそうなくらいには大森林の外に近いんだ。それで、行動範囲はそれほど広くなく、その範囲内で異なる種族がいるんじゃないかと思った』
長は上を向いて目を瞑り、少し経ってから『そうか』と告げてきた。
『別に、そいつらをすぐに紹介しろ、なんて言うつもりはない。まずは俺とこの集落で、互いのことを知ろう。まだまだ知らないことがたくさんあるはずだ。何をやったら失礼になるのか、どうのように礼儀を示すのか、何が好ましく、何が疎ましいのか。対話ができるようになっただけでも、俺はありがたい話だと思っている』
『そうか』と長は安堵したように告げて、茶を啜った。
俺は思念でやり取りできるものの、互いの言葉は通じないと言うか、聞き取ることが難しく、発することも難しいということが分かった。
ただ、近隣の種族ともそうで、互いに意思疎通するために文字を作っていることが分かった。
それも、俺たち人間に近い発音をする種族が主導して、その言語を元に、表音文字で作っているらしい。
近隣種族との交流は、何十世代にも亘って続いてきているそうだ。
その最初の世代の苦労が忍ばれるな。
ボディランゲージとかでやり取りしていたんだろうか。
それとも、俺のような思念を使える者がいて仲介していたんだろうか。
エルン村で、その種族共通文字を学ぶのは難しそうだ。
この世界の人間は、知る限りどの国も同じ言語を使っているので、異なる言語を学ぶということ時代が未知の領域だろう。
有仁がインドに初めて旅行した時に買った、指差し手帳のことを思い出した。
よく使う単語や挨拶について、種族共通文字と人間の言語を並べて、互いにその手帳で指を指して伝えれば、最低限の意思疎通はできそうな気がする。
その指差し手帳、思念が使える俺しか作れないよな。
互いのマナーとか、常識についてしっかり学べたら作ってみるか。
作ったとして、印刷して複製・・・は、そのギフトを持っている人に頼むことになるのか。
エルン村の外部に、他種族の話を漏らすわけには行かない。
俺が王都に行って、一度でもその複写のギフトを使っているところを見れば、俺にもできるようになると思うんだけど。
指差し手帳の複製は必要だから、それまでは、版画みたいなものを作って写していくしかないか。
色々考えながら、色々なことを長と語り合い、初回訪問では長以外との接触は最低限にして、夜が更ける前に俺はエルン村に戻ったのだった。
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