4つの辺境開拓地域②
1ヶ月ほどで4つの辺境開拓地域の観察が終了した。
それぞれの辺境開拓地域で誰にも悟られることなく情報を収集することができた。
予め、エルン村長とアデリナさんが王都で収集していた情報を含め、次のようにまとめてエルン村長に報告した。
北東辺境開拓地域:
・立地としては大森林に接しているが、他国との国境にも接している、二重の意味で辺境の位置にある。
・他4つの辺境開拓地域と比較して、最も魔素の影響の小さい地域である。
・他国と距離が近いが、他国から攻められたことは一度もない。大森林を刺激して隣国に魔獣が攻めるリスクと、占領するとアクチュア王国の代わりに管理する必要があるというリスクがあるためらしい。
・何度もスタンピードで滅びているが、瘴気獣が来たことは一度もなく、特大型魔獣も稀で、大型までの魔獣を頂点としたスタンピードがほとんど。大貴族と繋がっている隣国の意向と考えられる。
・王都から派遣された騎士爵の役人が管理者。ギフト持ちは子どもに1人いるのみ。
・大森林を探索する体制はなく、辺境開拓村に来た魔獣を撃退するのみ。魔獣が来襲する頻度は他と比べて低い。
・辺境開拓村の雰囲気は、穏やか。国内の町との交流があり、国境を超えて他国の町とも商取引あり。
・草と思われる言動をする人物は見つからなかった。草が存在しているとしても、潜伏していると考えられる。
東部辺境開拓地域:
・管理者は王都から派遣された騎士爵の役人だが、ほぼ実権がない状態。
・王家直轄領や貴族領で問題を起こした者がここに送られる傾向。他4つの辺境開拓村と比較しても、最も荒くれ者が多い。
・兵士上がりの怪力ギフト持ちが実質的なトップ。問題を起こして騎士爵を剥奪されて平民に戻っているという経歴。
・弱肉強食が基本路線となっていて、強者が弱者を支配する構造になっている。弱者とみなされた者は奴隷のような扱いをされていた。新参者は移住してから強者と弱者のどちらに属するか見極められるらしい。
・弱肉強食の文化である場所に、問題を起こした者が送られる傾向から、政府の移民を送る機関は東部の状況を認識した上で有用と判断していると考えられる。
・弱肉強食体制は、15年前にスタンピードによる崩壊から再建され、それから始まった体制で、その前は一般的な辺境開拓村だったらしい。
・南東辺境開拓地域以外で、唯一大森林探索を行っている。大森林で狩った魔獣の素材や収穫した果物・調味料などを近隣の町に販売して利益を上げている。この利益が強者の権力の源泉で、弱者は利益を上げる手段を持っていないようだ。辺境開拓村の中では農業をやっているものの生産性はイマイチで自給には程遠く、強者が戦い、弱者が守られるかわりに奴隷扱いを受容するという依存関係が出来上がっているようだ。
・実質トップ以外のギフト持ちは大人2人と子ども2人。子どもがギフト持ちになった2家庭は弱者から強者扱いに地位が向上したらしい。
・草と思われる人物を2人発見した。強者側で実質トップへの不満を誘導するような言動をするものが1人、弱者側で弱者の扱いへの不満を誘導するものが1人。他にも潜伏している可能性は高い。
南部辺境開拓地域:
・エルン村長の子供時代にスタンピードで崩壊しているが、その後2度崩壊している。
・エルン村ほどではないがそれなりに魔素の濃い地域。農業には苦戦し、それ以外の産業も特にない。何もないゆえに人が死にやすい環境であるらしく、移民は他の4地域に比べて最も多い。
・王都から派遣された騎士爵の役人が管理者。大人のギフト持ちはおらず、子どものギフト持ちが5名。戦闘向きのギフト持ち3名と生産向きのギフト持ち2名の内訳。生産向きのギフト持ちも含め、エルン村長の子供時代のように戦闘要員として辺境開拓村周辺を巡回するメンバーに組み入れられている。
・草と思われる人物を1人発見した。外部の人間とやり取りしているところを確認。南東でスタンピード誘引に失敗したことが伝えられていた。他にも潜伏している可能性は高い。
南西辺境開拓地域:
・立地としては大森林に接しているが、海にも接している。海は遠浅で港には向かない立地。
・魔素の濃さは南部より薄く、東部と同程度。
・海は魔境ではないので、海に接している立地を活用した産業が盛ん。農業より漁で生活の糧を得ている。海は魔境ではないが魔獣や巨大な生物が存在するため、陸から遠く離れたところまでは船を出せないらしい。
・大森林探索は行っておらず、辺境開拓村の近隣を巡回する程度。
・北東の次に穏やかな雰囲気。漁で食料を確保できているからか、住民には余裕が感じられる。
・王都から派遣された騎士爵の役人が管理者。大人のギフト持ちが1名いて、斧術のギフトを有し、近隣の巡回などを取りまとめている。おそらく騎士爵だが住民との距離は近い。子どものギフト持ちは2名。
・他の地域と同じくらいの頻度でスタンピードにより崩壊と再建を繰り返しているらしい。
・草と思われる人物を1人発見した。外部の人間との定期連絡のようにやり取りしていた。特に分断工作のような動きは見られなかった。他にも潜伏している可能性は高い。
4つ全て観察して回ってみて、思ったよりも地域ごとの違いが大きくて驚いた。
エルン村長とアデリナさんから聞いていたのは過去に崩壊した南部の話と、各地域の崩壊・再建、人口の流入・流出数の話くらいだったので、多くの知見を得られたと思う。
エルン村長とアデリナさんも、知らなかった話が多くて驚いていた。
まあ、アクチュア王国が1辺1000km程度の正方形のような国土の形をしていて、最寄りの東部と南部の辺境開拓地域でも500kmほどは離れている。
特段交流する機会も動機もなければ、互いに知らないままなのかもしれない。
北東を除いて草候補者を見つけたこと、北東もおそらく草が存在しているであろうことを考えると、スタンピード誘引の種はどの辺境開拓地域にもセットされているということだろう。
昔から続く『仕組み』として、再建するたびにスタンピード誘引の種を撒く流れになっているんだろう。
北西村で尋問した草は、何度も草として潜入した経験があると言っていた。
10年以上継続している辺境開拓村に潜入させるのであれば、南東だけでなく、他の辺境開拓地域にも潜入したんだろう。
ローゼルスタッド侯爵家という一つの家で全ての『仕組み』を動かしているとは考えにくいが、多くの大貴族が参画しているとしても、この『仕組み』の根幹、草や実行役の運用はローゼルスタッド侯爵家単独か、少数の大貴族で主導している可能性が高い。
実際に他の辺境開拓地域と連携できるようになるには、まだ時を待たなくてはならない。
エルン村を今後どのような立ち位置にするかを考えたときと同じように、何通りかその手段を考えられる。
俺が王都に行って、どのような行動をするか次第でもある。
今回得られた知見は、少し先の将来にまた役立てることになるだろう。
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