スタンピード計画の阻止②
俺は10分ほど斥候のギフト持ちと瘴気獣のチェイスを観察した後、斥候のギフト持ちの両手足を粉砕し、気絶させた。
身体術で足場を築く要領で手の平に一辺5mの板を貼り付け、飛び上がって一撃で瘴気獣を叩き潰した。
瘴気獣の肉がもったいない気もするが、さすがに今は処置する時間がない。
斥候のギフト持ちを片手で持って、飛び上がって空中に足場を作り、大森林の上を駆けて、辺境開拓地域から50kmほど大森林とは逆の方向に離れた、周囲に何もない荒れ地に降り立った。
そこで、斥候のギフト持ちに座り込むような態勢を取らせ、意識を戻させた。
「・・・何が?つっ」
何が起きたのか分からず、まず痛みに意識を取られたようだ。
そして首を振って見回し、両手足の骨が粉砕されて全く動かせないことに気づき、周りの景色が大森林から変わっていることに気づき、そして俺の方を見て子ども1人が目の前にいることに驚いた様子だ。
「お前にスタンピードを引き起こすことを依頼した者が誰か話せ」
要求しても答えない。
俺は斥候のギフト持ちの右手に手を触れ、他者の体で身体術を行使し、少し『治した』。
「っぎっ」
激痛にうめいたところで再度尋ねたが答えない。
今度は左手を少し『治した』。
すると、口からガリッという音が聞こえ、びくっと大きな反応を示した後、痙攣しだした。
奥歯に毒を仕込むという典型的な自殺用の用意をしていたらしい。
俺は斥候のギフト持ちの頭を掴み、身体術で毒から復帰させた。
神経毒を仕込んでいたようなので、無理矢理に神経を賦活させた。
両腕の『治療』とは比べ物にならない痛みと不快感で、斥候のギフト持ちは凄まじい悲鳴を上げている。
当然、気絶できないようにした。
神経毒からの治療が終わってから、俺は告げた。
「お前は自分の意志で死ぬことはできない」
何度も同じ質問を重ね、同じ回答を繰り返しても痛みを与え、無関係な発言にも痛みを与え、尋問を続けた。
精神魔術で気絶も狂うこともできないようにして、自白に誘導した上で。
精神魔術は俺の真のギフトによって使えるようになっているが、第三者はもちろん、使われている当事者も何をされているかは分からないだろう。
エルン村でも尋問に使うかもしれないが、当然使ったことは明かさない。
元エルン隊で尋問をした経験、された経験がある者がいるかもしれないが、気絶しないように、答えたくなるように、うまく痛みを与えているとでも解釈してくれるだろう。
直接の依頼者、この斥候のギフト持ちが所属している相手が分かった。
4名の草の出身地の共通項だった侯爵家だ。
他の貴族や、他国も関わっているかもしれないが、計画の主導者はここで決まりだろう。
その侯爵家以外の関与者については何度確認しても答えられなかった
実行者にはその背景までは伝えられないというのは当然かも知れない。
この斥候のギフト持ちは、長年に亘って辺境開拓村にスタンピードを起こす仕事に着手していたらしい。
似たようなギフトを持った前任者もいたらしい。
計画の全貌も、危機対策会議で推察したこととほぼ一致した。
意外だったのは、動機の面で、エルン村長とエルン隊に対してその侯爵家が強い敵対心を持っているらしいことか。
ローゼルスタッド侯爵家。
王都の近くに広大な領地を持ち、強い力持つ貴族家。
王家には対立的で、王家の力を削ぐために辺境開拓地域を滅ぼす計画を何度も実施していたそうだ。
国軍の役職を世襲職のように確保し、軍事閥における有数の有力者でもある。
エルン隊が独立戦闘部隊として動くため、たとえ将軍であったとしても直接の指揮権を持てず、前線での活躍を独占されていたと危機感を覚えていたらしい。
エルン村長をエルン隊の長から失脚させ、南東辺境開拓地域に追いやったのもローゼルスタッド侯爵家が主導していたらしい。
エルン村長が抜けた後、俺の両親が率いることになったエルン隊を陥れ、両親が戦死することになったのもローゼルスタッド侯爵家の画策。
南東辺境開拓地域に追いやったエルン村長や元エルン隊の隊員を皆殺しにするために、南東辺境開拓地域のスタンピードについては念入りに計画され、入念な準備をしたうえで実行に移されたそうだ。
そうか。
エルン村長の、エルン村の敵は、俺とイリナにとっての両親の仇でもあったのか。
意外な事実も含めて、一通り尋問を終えたと判断し、改めて両手足を砕き直し、気絶させて片手に持ち、北西村へ向かった。
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