瘴気獣との戦い
6歳になって、初めて瘴気獣に遭遇した。
話には聞いていたけれど、聞いて想像していたよりも『奇形』で『歪』だった。
基本的に巨大だと聞いていたけれど、全長20m程度の大型で、特大型には全く届かない程度だった。
全長はそうだけれど、元は熊型だと思われるが、背中の中央から左向きに腕が生えていたり、足が右肩から後ろ向きに生えていたり、上顎の牙が下顎を貫いていたり、無理やり後から部品をくっつけたような造形をしていた。
何より、そこら中の皮膚がただれていたり、溶けているような箇所もあった。
見ていると、常に苦痛を感じているような、存在していること自体が苦しいというような生物だと思った。
そして、人間への執着は聞きしに勝るほどで、人間を認知してから、人間以外は目に入らない、魔獣がいても樹木があっても気にせず真っ直ぐに人間に向かってくる性質を実感した。
それと、はっきり分かったのは俺だけかもしれないが、瘴気中には体内の魔素が驚くほど少なかった。
その濃度は小型魔獣よりも低いくらいだった。
大森林の奥に向かうほど、魔獣の大きさの割には魔素の濃度が低いものがいて、そういった魔獣に限って凶暴性が高く、人間に執着する傾向があった。
瘴気獣を見てはっきり理解できたが、体内の魔素濃度がサイズに比較して低いものは、魔素が瘴気、この場合は瘴素と呼ぶべきものに置き換わっているのだろう。
瘴素に置き換わっている割合が高いほど凶暴になり、人間に執着するようになり、ほとんど置き換わると瘴気獣となるのではないだろうか。
そして、瘴素に侵されると奇形化が進むのかもしれない。
対して、人体の魔素の動きはほぼ100%俺には把握できるので、人間は魔素は体内にあるものの、瘴素には侵されない性質があるのかもしれない。
魔獣と近い環境、辺境に住み、大森林を探索している人間が全く瘴素に侵されていないことから、俺はそう推察している。
人間以外にはそういった性質が見られる存在はなかったので、この世界の人間の固有の特質と言うべきものかもしれない。
瘴気の濃度が高いものは瘴気の濃度が低いものを獲物として好み、瘴気濃度が0%の人間が最も好まれるのかもしれない。
瘴気獣に出遭った時、俺が1人で相手をさせてもらった。
とにかく一番近くにいる人間を標的にするようで、俺が探索メンバーから突出して瘴気獣に向かうと、その瘴気獣も俺を標的として襲ってきた。
その瘴気獣は、特大型の魔獣と比べても力が強く、動きも速かった。
両手両足だけでなく、奇形の腕も足も使ってくるし、こちらが攻撃して剥がれた皮膚や千切れかけた手足まで武器として使ってきた。
首を落としても、心臓を壊しても、しばらく全く効いていないように動き回り、内臓をいくつか破壊している内に、スイッチが切れたように崩れ落ちた。
この生命力の強さというか、しぶとさも瘴気獣の特徴のようだった。
倒した後、どうするのかを同行していたエルン村長に聞くと、エルン村に持ち帰りたいとのことだった。
瘴気獣の肉は貴重で旨いと聞いていたけれど、グロく、汚くて、とても食べられるようなものに見えなかったが、瘴気獣は死ぬと瘴素が抜けていくそうだ。
3日程度経つと瘴素が完全に抜け切って、生で食べても腹を壊さない食材になるらしい。
俺は瘴気獣を倒した場所とエルン村の解体用の広場を何度も往復して瘴気獣の屍体を運ぶことになった。
解体用の広場に移して3日ほど経つと、見た目の悪さはそれほど変わらないものの、瘴気まみれの禍々しさは無くなったように見えた。
その日はエルン村の祭りとなり、みんなで瘴気獣の肉を食べることになった。
覚悟して食べてみると、とんでもなく旨かった。
生で食べても、焼いて食べても旨い。
何もつけなくても、塩だけ振っても、調理しても旨い。
ただ、保存はできないそうで、瘴素が抜けきってから3日ほど経つと、細かい灰のようになって消えてしまうそうだ。
本当に不思議な食材だな。
更に余録があって、瘴気獣の肉を食べると、魔素を動かす魔力が向上するらしい。
俺は元々魔力が大きいものの、微妙な差を自分で把握できるので、食べるたびに魔力が極僅かながら向上していることに気づけた。
ちょっとした魔術を教えただけの主婦層や、大森林探索の見学メンバーなどは向上している実感が大きかったようだ。
こうして、瘴気獣の性質も実感することができた。
そして、人為的なスタンピードを起こすのにこれ程適した存在もないだろうなと思えた。
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