大森林探索と盾役導入①
今日は大森林の探索に参加する。
今回は初めての試みとして、俺が最前線に出て盾役となり、その後ろに見学メンバーを配置して、攻撃に参加してもらう予定だ。
小型の魔獣相手ではこの体制で通し、中型が出てきたら戦闘メンバーにも混ざってもらう予定だ。
見学メンバーに、どの程度の攻撃を加えればダメージを与えられるのか、どのような攻撃が有効を学んでもらい、日頃の訓練にも学んだ知見を反映してもらう趣旨だ。
今回の大森林探索は、俺、見学メンバー3名、エルン村長、キリル兄さん、ギフトなしの戦闘メンバー2名の合計8名だ。
初めての試みなので、今回参加する見学メンバーの人数は、俺が確実にフォローできそうな3名に絞ってもらった。
ギフトなしの戦闘メンバー2名は小型相手では問題ないが、中型相手だとまだ戦闘に参加できない者を選んだ。
中型魔獣相手に攻撃に参加してもらい、見学メンバーと同様のことを学んでもらう趣旨だ。
いつも訓練している広場に集まると、見学メンバー3名は緊張しつつ、興奮もしているようだった。
今まで訓練してきたことを実践で試せる機会に、感情が高ぶっているようだ。
見学メンバーの武器は刃渡り60cmほどのショートソードで、いつも通りだ。
盾役の俺の後ろから槍で攻撃してもらう方が安全なんだけど、いつも訓練している武器の方が使い慣れているし、有意義かなと思って、そのままにしている。
ギフトなしの戦闘メンバー2名は普段とあまり変わらないように見えるが、中型相手に戦闘参加できるからか、高揚しているようにも見える。
大森林の縁の前で隊列を編成した。
俺が先頭で、見学メンバー3名をその後ろに配置。
見学メンバーの後ろにはギフトなし戦闘メンバー2名が続いて、最後尾にエルン村長とキリル兄さんを配置。
今日の探索は行程の管理を含めて俺に任されている。
前後の間隔を確認して、大森林に入っていった。
案の定、見学メンバー3名はかなり浮足立っているようだった。
いつもの見学だけの探索とは、全く違う心持ちなんだろう。
「3人とも、落ち着いてください。これならセルゲイじいさんを連れてきたほうが、まだ落ち着いているんじゃないかな」
俺が見学メンバー3名に声をかけると、3人で顔を見合わせながら、バツの悪そうな顔をしていた。
3人とも落ち着いて、いつも通りに周囲を確認しながら歩くようになった。
見学メンバーは誰もがセルゲイじいさんには負けたくないと思っているので、比較対象として出されると特に効くようだ。
大森林に入ってから2kmほど歩いたところで、小型魔獣の気配を感じた。
「正面200m、小4、全て犬型」
声をかけて立ち止まると、見学メンバー3名はそれぞれ身体術を自分でコントロールできる限界まで行使したようだ。
小型の犬型魔獣はこちらに気づいたようで向かってくる。
「10秒で接敵」
見学メンバー3名の緊張する様子が伝わってくる。
攻撃できると思った時は自分のタイミングで攻撃して構わないと予め伝えている。
ショートソードを構えて前に出られる態勢を取ったようだ。
緊張しても気後れはしていないようで安心した。
俺は何も持たず無手で待ち構えていた。
全長1.5mほどの犬型魔獣が2頭、俺にめがけて向かってくる。
全長2mほどの2頭がその後ろで足を止めている。
向かってきた2頭が口を開けて俺の喉に噛みつこうと飛びかかってきた。
俺はそれぞれの首を捕まえて吊り上げた。
左の方の魔獣Aに1人、右の方の魔獣Bに2人、見学メンバーが斬りかかった。
左の方は魔獣Aの腹を斬り裂いてかなりのダメージを与えている。
右の方は2人で斬りかかったからか、どちらの与えた攻撃も魔獣Bは浅い傷に留まっている。
俺がその2頭を後ろで足を止めていた2頭よりも向こうに放り投げると同時に、足を止めていた2頭が右の方に斬りかかった2人の内1人の足に向けて地を這うように噛みつこうとしていた。
俺がこの2頭の首を上から押さえると、先ほど左の方に斬りかかった見学メンバーと、右の方に斬りかかった2人の内狙われなかった方の1人が上段から斬りつけた。
左の方の魔獣Cは背中に当たってそれほどダメージを与えられず、右の方の魔獣Dは首を斬り裂いて血しぶきが上がった。
魔獣Bが走って向かってきたので、見学メンバーに噛みつこうとする前に魔獣C・Dから手を離し、魔獣Bの鼻面に手をかざして留める。
魔獣Cが見学メンバーに再度噛みつこうとしたところでその鼻面に手をかざして留める。
俺の手に噛みつこうとしてくるが、身体術で強化しているので全く歯が立たない。
魔獣Aと魔獣Dも重症ながら見学メンバーに向かうがそれぞれ見学メンバーの近くに寄ったタイミングで鼻面に手をかざして留める。
見学メンバーから見ると、俺が高速移動してギリギリで止めているように見えるだろう。
予め、どのように盾役をこなすか話していたが、眼の前で見ると戸惑っているようだ。
手を止めて立ち止まっている見学メンバーに声をかけず、ひたすら盾役に専念していると、我に返った見学メンバー3名が各々攻撃に参加し始めた。
見学メンバーが4頭全てを倒し終えるまでには10分程度の時間がかかった。
4頭が確実に死んでいることを確認すると、見学メンバー3名は座り込みはしないものの、息を切らせて声が出ないようだった。
戦闘メンバーに4頭の死骸を始末してもらっている間に、予め決めていた通り、見学メンバー3名を集めて周囲を警戒しながら反省会だ。
「初めての魔獣討伐、お疲れ様でした。どうでしたか?」
「思った通りに動けなかった」
質問すると1人がすぐに答えた。
他の2人も同意見なのか、深く頷いている。
1人が口に出したからか、後は次々に意見が出た。
「身体術で力をつけても、剣にその力を乗せられなければうまく斬れなかったな」
「剣の刃筋を立てられないと、斬るどころかベチッと叩いただけだった」
「うまく力を乗せてうまく斬れたと思っても当てた場所で斬れなかったりしたな」
「アルトに動きを止めてもらってこれだからな。自分だけで戦ったら一方的にやられていたかも」
「首を斬り裂いても腹を破っても死なずに牙を向いてきたな」
「ああ、すごくしぶとかった」
「そういえば、ほとんどアルトを狙わずに俺達を狙って来たよな」
「あれか、弱いヤツから狙うってやつか」
「弱いヤツが誰か、すぐに分かるんだろうな」
うん。
意見に出なかったら俺が補足しようかなと思っていたことが、しっかり認識されているな。
「正直なところ、身体術がなくても、小型魔獣なら倒せるはずなんですよね。他の辺境開拓村では身体術を使える人が少なくて、ないまま戦うのが普通だとエルン村長から聞いています」
俺が伝えると、見学メンバー3名は驚いているようだ。
身体術を自分の限界まで使ってもなかなか通用しなかったからかな。
「どこをどのように攻撃するか、その工夫だけでも変わってくると思いますよ。なかなか死なないのなら、死ぬような攻撃をすればいい。首を切り落とすか、心臓を破壊すれば、しぶとい魔獣でも死にますからね。どのように切れば首を落とせるのか、どこに急所があってどのようにそこを攻撃すればいいのか、そういったところでしょうか。1対1で戦わず、数でボコボコにするというのもアリでしょうし」
3人とも振り返って考えているようだ。
どうも、今まで見てきた戦闘メンバーのようにキレイな戦い方をそのまま実践しようとしていたところが見受けられたからな。
斬れないなら突けばいいのに、剣を使う戦闘メンバーがあまり突きを使わないから、そこにはあまり思い至らなかったようだ。
訓練では練習しているはずなんだけどな。
今までは、エルン村長の方針で、1対1で余裕を持って戦えることが戦闘参加の条件になっていたから、泥臭い戦い方を実戦でやる機会も見る機会もあまりなかったのかもしれない。
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