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大力(嘘)で身を立てる  作者: ろん
第一部 辺境開拓村

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身体術・魔術の教授対象とキリルの特訓

身体術・魔術を誰に教えるのか。



まず、魔術について、発火の魔術をエルン村の住人全員に教えることになった。


身体術と魔術の両方が使えない場合、つまり魔素を扱う魔力がない場合、魔素の濃い辺境は生活しているだけで辛さがあるらしい。


大森林に突出しているエルン村の立地だとその傾向がより顕著になる。


子供は魔素の濃さを実感しにくいらしいから有仁と統合する前のアルトには分からなかったし、ギフトに覚醒してからはなおさら分からなくなっていたんだな。



発火の魔術を教えられることには特に身体的なリスクはないし、身体術を教えるより現実的だろう。


ただ、俺が他人の体を通して発火の魔術を使い、その相手が魔素を認識し、魔力を扱うのは時間がかかるかもしれない。


定期的に時間を取って、まとめて教える形になるだろうか。



発火の魔術は子供にも教えることになっている。


意外と大人よりも習得が早い気がする。


ただ、遊びで使わない、火の気のあるところで使わないなど、躾の方が大変になるかもしれない。



エルン村から北西村に向かうのは、エルン村長夫婦とキリル兄さん以外の戦闘メンバーくらいだから、戦闘メンバーに『不公平だと思われると厄介だから』と口止めしておけば、まず漏洩のリスクはないと踏んでいる。



俺が他の魔術も問題なく教えられるようになったら、その時はまた教える対象を別途考慮することになっている。




身体術については、大森林の探索に参加する者に限定することになった。



ギフト持ちにはエルン村長に対して試したように、気付きを与える程度なので最初に試す。



ギフトなしの独力で身体術を使えるようになった今の戦闘メンバーは、ギフト持ちの次に試し、希望に応じて継続的に俺が身体術を戦闘メンバーの体で行使することになった。


キリル兄さんと同じ傾向があるのであれば、一番伸びる層だからだ。



身体術の使えない今の見学メンバーは、横一線で定期的に教える時間を取ることになった。


発火の魔術を先に教えることで魔素の認識と魔力の扱いを覚え、それから身体強化に進める。


それなりに時間がかかるかもしれないが、訓練で体を動かし、大森林探索で魔獣との戦いを間近で感じているので、セルゲイじいさんよりは習得が早いかもしれない。


何より、セルゲイじいさんに負けられないというモチベーションもあるしね。




身体術と魔術を教える作業にある程度着手した後、キリル兄さんについて話し合うことにした。


俺に考えがあり、エルン村長夫婦にも納得してもらったので、エルン村長夫婦、キリル兄さん、俺の4名で場を整えて話すことになった。



「キリル兄さんには、特別な役割を担ってほしいと考えているんだ」


身体術や魔術の教授の進捗状況や、それに関わる話題などを話し、場が温まったところで、俺はキリル兄さんに告げた。

キリル兄さんが答えを返す前に話を続ける。


「エルン村の人達全員に発火の魔術を教えて、大森林探索メンバーに身体術を教えてみて、分かったんだ。キリル兄さんがどれだけすごいのかをね」


「エルン村長、アデリナさん、キリル兄さん、レフ兄さんの4人に初めて俺が他者の体を通して身体術を行使した時、キリル兄さんの感想を聞いて『ギフトなしで独力で習得した人が、他者から身体術を行使されると、飛躍的に向上させられる可能性がある』と思ったんだ。でも、そんなことはなかった。元エルン隊に所属していたギフト持ちでない人たちは、ギフト持ちの人と同じように、『少し改善できるかも』くらいの感覚だった」


「そもそも、キリル兄さんのように11歳で身体術と魔術をギフトなしで使えていること自体がすごいことだったんだね。元エルン隊の人たちも何度も戦場に出て、死にそうになりながら戦っている内に少しずつできるようになったって言ってたよ。キリル兄さんが大森林で戦っているから、『辺境だと子供でも戦うんだな。俺達が戦場で身体術を覚えたのと同じようなもんか』と思って気にしていなかったみたいだけど」


キリル兄さんにとっては予想外の話だったようで目を白黒させている。


エルン村長とアデリナさんに初めて話した時も同じように驚いていたな。


「私もアルトに言われて初めて気づいたよ。そういえば、私が南部の辺境開拓村にいた時は、ギフトなしで身体術を使える子供なんて一人もいなかったな、と。キリルが身体術を使えるようになった時、早いなとは思ったけど、辺境でのことだからそういうものかなと納得してしまっていたね」


「私も、当然町ではギフトなしの子供が身体術を使うなんてことはなかったけど、エルンとこの辺境開拓地域に来るまでは一度も辺境に行ったことがなかったから、辺境だとそういうものなのかと納得しちゃっていたのよね」


エルン村長とアデリナさんが思い出しながら話した。


キリル兄さんは急に褒められて驚いたものの、話の行先が分からなくて困っているようだ。


「自分で身体術を使えるようになって、魔術まで使えるようになったキリル兄さんはすごいんだ。僕は前からそう思っていたんだけど、身体術と魔術を教えるようになってよりそれを実感したんだ」


重ねて改めて感想を伝える。

ここからが本題だ。


「セルゲイじいさんが身体術を使えるようになってから、大森林探索メンバー、特に見学メンバーの意識が変わったと思うんだ。セルゲイじいさんに競走で負けた人は悔しくて身体術のを必死で習得しようとしていたしね。そしてセルゲイじいさん自身も負けないように更に身体術を研鑽していている。セルゲイじいさんが負けられない基準となり、その基準自体が上がり続けているんだ」


「キリル兄さんには、セルゲイじいさんとは違う形で、ギフトなしでもここまでできるんだっていう、みんなの目標、みんなの期待の星になってほしい。ギフトなしでもギフト持ちに勝てるというモデルケースになってほしい。・・・そうなるための、僕のスペシャルコースの特訓を受けてほしいんだ」


「アルトのスペシャルコースの特訓、ね。アルトがギフトに覚醒してすぐにやったようなことを僕がやるっていうことかな?」


キリル兄さんが覚悟を決めた顔で尋ねてきた。


腕が千切れて飛んだことや体中の骨が折れまくった話は前にしたから、どれくらいのレベルの特訓か、すぐに思い当たったようだ。


「あの時と違って、魔力の精密制御に慣れてきたし、そこまでひどいことにはならないと思う。多分。骨が折れることくらいはあると思うけどね」


「・・・うん。強くなれるのなら、やるよ。よろしくアルト」


キリル兄さんは、このわずかな時間で完全に覚悟を決めたようだ。


この成長することへの貪欲さ、家族に、村のみんなに貢献したいという気持ちの強さが、独力での身体術・魔術の習得に繋がったんだろうな。


有仁の世界では大人でも、俺自身を含めても、ここまでの心の強さを持っている人を知らないぞ。


俺はギフトなんかよりも稀有な資質だと思うけどな。


「キリル兄さん、受け入れてくれてありがとう」


お礼を言うと笑顔で頷いてくれた。


本当に心が強いな。


この作品を読んでいただきありがとうございます!


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