南部辺境開拓村の運営引き継ぎ③ 欲求5段階説、改革と統治の着手
ジェニアたちが南部辺境開拓村から去り、レフ兄さんが南部辺境開拓村の管理者、村長になった。
トップが代わったこのタイミングで、改革を一気に進めたいところだ。
有仁の世界で、人間の欲求5段階説という考え方があった。
人間の欲求には5段階あり、低次の欲求が満たされて初めてそれより高次の欲求が生まれるという人間の欲求、ひいてはモチベーションに関する考え方だ。
低次の欲求から並べると、
1.生理的欲求
2.安全の欲求
3.社会的欲求
4.承認の欲求
5.自己実現の欲求
となる。
生理的欲求は、人間が生きるための物を求める欲求で、食事・睡眠・水の摂取などを満たしたいという最低限の欲求でもある。
安全の欲求は、自分の身の危険のある状況から抜け出したいという欲求だ。
社会的欲求は、集団に所属したい、仲間が欲しい、社会的な繋がりが欲しい、という社会との繋がりを求める欲求だ。
承認の欲求は、他者から認められたい、尊重されたい、評価されたいという、自分の尊厳を求める欲求だ。
自己実現の欲求は、自分らしく生きたい、自分の力を活かして社会に貢献したい、という欲求だ。
生理的欲求や安全の欲求が満たされていないのに、人とのつながりや評価を求めたりしない。
・・・とまあシンプルで、有仁の世界でも批判のあった考えでもあるが、そんなに外れた考え方ではないとも思う。
有仁の友人の医者は、高次の欲求が満たされているのに低次の欲求が満たされていない典型例だった。
社会的に評価されているし、人の命を助けるという高潔な目的で働いているが、睡眠が取れなかったり人と交流している時間がなかったりする。
自分で選んだ道だといえばそれまでだが、有仁の友人の医者はあまり幸せそうには見えなかった。
南部辺境開拓地域の前管理者だったジェニアも、高次の欲求が満たされて低次の欲求が満たされていなかった有仁の友人の医者に似ているかもしれない。
南部辺境開拓村の村人たちは、低次の欲求が満たされていない状態にある。
余所者が村に来てもすぐに関心を失うという態度は、生理的欲求や安全の欲求が満たされていないのに社会的欲求は生まれない、という典型例だろう。
まず、低次の欲求、生理的欲求と安全の欲求を、迅速に、そして分かりやすく満たしてやることが肝要だ。
村の防衛役を持ち回りで担当することを廃止し、当面はエルン村から連れてきた5人が防衛役を担うことにした。
この5人が村の防衛を交代で回していくことになるが、人数が足りないようなら追加で呼んだりすることは考えている。
辺境開拓村だけを防衛するなら、十分だとも考えているが。
辺境開拓村の周辺を探索して近辺の魔獣を駆逐するなどの活動を始めるなら当然人数が足りなくなるが、当面は辺境開拓村の防衛だけに専念してもらう。
南部辺境開拓村で行われている農業は、それなりに人手をかけて行われていたが、うまくいっていなかった。
畑も家ごとにバラバラに作っていたので当然整理されていない。
近くに家がなく、管理もされていない一画を、レフ兄さんが土魔術で僅かな時間で畑にしてみせた。
キレイな正方形の区画で、畝が何本もできている。
レフ兄さんが風魔術と土魔術でエルン村から持ってきた作物の種を等間隔で植えていく。
見ているだけでいいと言われた村人たちは「おお・・・」と感嘆の声を上げていた。
レフ兄さんが水魔術で魔素をたっぷり含んだ水を畑に撒いていく。
そして仕上げに生命魔術をかけた。
畑に芽が出て、さらに生長していく。
畑が緑で彩られる。
「「「うおおおおおお!!!!」」」
見ていた村人たちが歓声を上げた。
南部辺境開拓村の村人たちにも、これからの農業がうまくイメージができただろう。
今は魔素をたっぷり含んだ状態だが、収穫前の仕上げでエルン村から持ってきた魔素を含まない農作物にできることは既に伝えている。
レフ兄さんが、村人たちに水やりなどの作業を今後は担ってもらうこと、既存の畑も今作った畑のように整理されたものに変えていくことを、村人たちに伝えた。
広場に村人たちを集め、ケイトさんが土魔術で5mの正方形で50cmの深さのプールを作り、そこに水魔術で魔素を含まない水を出した。
村人たちにその水を飲んでみるように勧めると、躊躇する者が多かったが、最初に飲んだ者がうまそうにガブガブと飲み始め、集って次々と飲み始めた。
ケイトさんがプールの脇に土魔術で塩を生成した。
舐めてみるように勧めると、今度は村人たちは躊躇せずに口に入れ、「塩だ!」と驚愕してケイトさんの方を見た。
魔素を含まない農産物と水を作り出せること、塩も街で購入せずに生成できることを村人たちに実地で体験させることで、村人たちにこれからの生活の展望を示してやることはできた。
生理的欲求については、食べ物や水がこれまでとは大きく異なる水準で満たされることを実感できただろう。
安全の欲求については、実際に辺境開拓村を魔獣が襲ってきた時に、エルン村から来た5人が対処してみせることで安全が保たれることを示せるだろう。
村人へ仕事をどのように割り振っていくかは慎重に検討していくことになる。
南部辺境開拓村の村人たちは、これまでは目の前の仕事をただ必死に熟すことで生きてきた。
まずは農業に従事させて、収穫までやらせてみる。
それから衣服や身の回りの品の作製など、この辺境開拓村に必要となる仕事に割り振っていこう。
祭や宴会なども定期的に開いて村人同士の交流も増やしていく。
日常的な仕事や非日常的な祭事での交流で、社会的欲求以降の高次の欲求も満たしていけるようにしていく。
南部辺境開拓村の村人たちを戦力化していく、身体術や魔術の訓練を施していくのは当分先の話になるかな。
南部辺境開拓村の北80kmにあるサウスガードの街との交流も、相手の様子を見ながら慎重に進めていく必要がある。
南東と南部の間に100kmごとに駅となる村を開拓することも、今から計画は立てておく。
エルン村長、アデリナさん、レフ兄さん、ケイトさん、俺の5人で、まずどのように動いていくか、将来はどのようにしていくか、予め考えていた案と南部辺境開拓村の現状を擦り合わせて、具体的な案として決めていった。
レフ兄さんとケイトさんがいれば、南部辺境開拓村の改革と運営はうまく回りそうだな。
安心して任せることができそうだ。
この作品を読んでいただきありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いします。




