帰郷と儀式④ 応酬、変わって変わらないもの
エルン村長が微笑みながら近づいてくる。
「さすがのアルトも、参ったようだね?」
「・・・・・・ええ」
さすがに素直に答えにくく、答えるまで間が空いてしまう。
「いろいろと『やって』くれたようだからね。
少しはお返しがしたくてこちらも『やって』みたんだよ」
あー。
心当たりは山ほどあるな。
「独立戦闘部隊の名称に私の名前を使わなかったのはよかったけど・・・
あの『エルン隊の歌』や『エルン村の歌』はアルトが仕掛けたんだろう?
『アルトの歌』まで繋げるように広まっていったんだからね」
俺はエルン村長の笑顔の奥に怒りがあることを感じてこわごわと頷く。
「まあ、あのおかげで北西村にまでたまに人が来るようになったし、サストガードにも人が来るようになって、それから取引が増えたりしたから、いいことでもあったんだけど。
だからこそ、こう、やりきれないものがね・・・」
エルン村長は誇張して評価されることを恥ずかしいと思う性格だから、やめてほしかったようだ。
ただ、それのおかげでエルン村の利益にもなっていて、感情の持っていきどころに困ってるというところだろうか。
「あと、アルトの家名だね。
光栄だとは思うんだけど、家名に私の名前を入れるなんて・・・」
エルン村長が目を瞑ってなにかに耐えるような顔になっている。
「この人は照れちゃってるのよ。
初めて聞いた時なんか、顔を真っ赤にしていたからね」
エルン村長の後ろから近づいていたアデリナさんが、にやにやしながらエルン村長の内情を暴露してしまった。
「アデリナ!」
エルン村長が咎めるような口調になりながら、少し顔が赤くなっている。
「家名については、国王に大力ギフトだから『ビッグパワー』にされかけて、それでエルン村長の名に因むように滑り込みでお願いしたんですよ」
俺が弁解すると、エルン村長は少し納得したような顔になったが、アデリナさんはにやにやした表情を変えない。
「それでも他の案を提案することもできたはずよ。
元々、エルンの名に因む方向で考えていたのでしょう?
アルトの名前は一代限りだけど、家名にすればエルンの名前はアルトの次の世代以降も残り続ける。
あなたがエルンに恩を感じているのはよく知っていたけど、そこまでするとは思っていなかったわ」
アデリナさんには誤魔化しが効かなかったか。
他の者には自然な言い訳として通っていたんだけどな。
俺も照れくさくなって頬が火照っていることを感じる。
ついさっきまで手の込んだ「サイレント・トリートメントもどき」に文句を言いたい気持ちでいたのに、同じように俺に文句を言いたかったエルン村長と一緒に照れくさくなって、それをにやにやしているアデリナさんに見られているという、変な構図になってしまった。
気を取り直して周りを見渡してみると、アルト隊の連中が驚愕した顔でこちらを見ていた。
ああ、俺が誰かをやり込めることはあっても、俺が誰かにやり込められるところは見たことがなかったからだろうか。
この場にいる大部分の人は瘴気獣の料理に舌鼓を打ち、酒を飲んで楽しんでいる。
レフ兄さんとケイトさんはとっとと料理をしている方に向かってエルン村の人たちと楽しんでいる。
グローフィル子爵と2人の護衛も初めて食べる瘴気獣の料理に驚きながら楽しんでいるようだ。
アルト隊の連中はまだ瘴気獣の料理にはありついていないようだ。
まあ、瘴気獣の肉は骨などを除いても千トンを余裕で超える量があるから食べ損ねることはないだろうが、食べに行くように促してやるか。
昔ながらのエルン村の宴会騒ぎに、アルト隊やグローフィル子爵たちも混じった、不思議とみんな馴染んだ様子の騒ぎが繰り広げられた。
いい気分になったリュクがエルン隊の歌を歌おうとして、エルン村長がそれを止めようとして、それをアデリナさんやエフゲニさんが止めて、そのまま歌わせたり。
すっかりエルン村に馴染んだ、王都からエルン村に言った生産系ギフト持ちのナンドとジュリーが、レフ兄さん夫婦と意見交換で盛り上がったり。
相変わらず陽気なマクシムさんとセルゲイじいさんが、アルト隊の面々に絡みに行ったり。
変わらないことも、変わったこともいろいろあるけれど、今ここには楽しい時間がある。
そのことが、何だか俺には貴重に思え、嬉しくなった。
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