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大力(嘘)で身を立てる  作者: ろん
第一部 辺境開拓村

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セルゲイじいさんと身体術②

「さて、まずは動けるように身体術で腰を治すよ」


セルゲイじいさんに声をかけながら、果物と一緒に持ってきた布を折りたたむ。


セルゲイじいさんは何をやっているんだと不思議そうに俺の手元を見ている。


「これを噛んで。身体術で治すとかなり痛みが走るから」


セルゲイじいさんが何かを言おうとして口を開いたところに布を差し込む。


「じゃあ、やるよ。体の中でどんな風に魔素が動いているか、魔力で動かしていることを感じてね。身体術で治すことは身体術で強化することよりも難しいけど、いずれできるようになってもらうから」


セルゲイじいさんの背中に手を当てる。

セルゲイじいさんの体が緊張で少し固くなるが、気にせずセルゲイじいさんの体内で魔力を使い、魔素を動かしていく。


「やるよ」

「ふごおおおおおおぉぉぉぉ」


一瞬で治すこともできるけど、分かりやすいように時間をかけて治していく。

一瞬で治すよりも痛みは軽くなるけれど、継続した痛みもしんどいかもしれないが、我慢してもらおう。



一分ほどかけて治しきった。

セルゲイじいさんは汗だくになっている。


「終わったよ。お疲れ様」


口に挟んだ布を取りながら声をかけた。


「・・・アルトよ。何というか、心の準備というものがな・・・」


「変に構えられるよりは、不意打ちのほうがいいかと思って。それよりも、体の中で魔力によって魔素を動かす感覚は掴めたかな?」


セルゲイじいさんはすごく文句を言いたそうな顔をして、そしてそれを飲み込むように一息ついてから答えた。


「エルン村長やアデリナさんに腰を治してもらった時とはかなり違ったな。あの2人には生命魔術を使ってもらったんじゃったか。温かい感覚があって、終わったら自然に治っているかのようじゃった。今アルトにやってもらった身体術は、治っていく過程が生で感じられると言うか、自分の体が治る方向に動いていく、その過程で痛みも感じるというところか」


「うん。身体術で治すのは、強化することの延長のようなカンジだね。強化に失敗すると、治すときと逆方向だけど同じような痛みがあると思う。どうする?もうやめる?」


セルゲイじいさんに確認すると、不敵な顔をして返してきた。


「やめるわけがなかろう。やるぞ!続きをやってくれ!」


うん。セルゲイじいさんも辺境の男だね。

年を取ってからマクシムさんについて街から辺境にきたはずだけど、腹が据わっている。


「じゃあ、まず腰回りを強化して腰を痛めないようにしてから、足を強化していくよ」


セルゲイじいさんの背中に手を当てたまま、続けて身体術を施していく。


腰回りの筋肉の強度と靭性をゆっくりと向上させていく。


腰回りが終わったら、両足の筋力と強度と靭性を1.3倍程度に向上させる。



セルゲイじいさんは目を瞑って魔素の動きをしっかり感じようとしていたようだ。


「終わったよ。それじゃ、立ってみて」


セルゲイじいさんはゆっくり確かめるように起き上がり、ベッドから降りて直立した。


俺は背中に手を当てたまま動きについていく。


「おお」


セルゲイじいさんが自分の腰や足を見ながら自分の思い通りに体が動くことに感動していた。


「まず部屋の中を歩いてみて」


セルゲイじいさんに声をかけると躊躇せずに足を踏み出し、歩き出した。


強化された足で歩く感覚に少し戸惑っていたが、すぐに慣れたようだ。


「ちょっと走ってみる?」


セルゲイじいさんは答えもせずに走り出した。


2歩目で少し躓いたが、俺が支えて立て直すと、またすぐに部屋の中を走り回った。



まるで子供みたいだけれど、気持ちは分かる気がする。


「一旦止まって、ベッドに戻ろうか」


俺が声をかけるととても不満そうな顔を返してきた。


「僕がいなくてもできるようになってもらうからね」


俺が続けると「そうか」とベッドに戻った。


そのまま仰向けに寝た体制になってもらい、俺は身体術を切って手を離した。


「身体術を使う感覚は掴めたかな?」


「おお・・・アルトが魔素と呼んでいるらしきものが、体を支え、動かす手伝いをしてくれているのがよく分かったよ」


「その魔素を動かす感覚を掴んで、自分でできるようになってもらうよ」


「ふむ・・・何となく、アルトの言いたいことも、ワシのやるべきことも分かるんじゃが、まだピンとこんのう」


「まあ、いきなりできちゃったら、身体術は誰でも簡単に使えるものってことになっちゃうからね。そんなに甘くはないよ。とにかく、魔素を動かす魔力を体感して、そして僅かでも自分の意志で使ってもらう。時間はかかるけれど、できるようになるまで付き合うつもりだよ」


「そうか。ワシにできる可能性があるのなら、ワシも諦めるつもりはないわい。よろしく頼むぞ」




それから俺が身体術を施し、その後でセルゲイじいさんに試してもらったが、その日の夕方までやってもセルゲイじいさんが自分の魔力で魔素を動かすことはできなかった。


俺がいない時に練習してもいいけれど、もし少しでもできるようになったらそこで止めること、自分一人でやり続けると、身体術で治すときのような痛い目に遭う可能性を伝えた。




3日に1回ほどマクシムさん家に通い、セルゲイじいさんの身体術習得に付き合った。


半月くらい経った時に、セルゲイじいさんが自分の魔力で魔素を動かしていることを知覚できた。


一度動かせるようになってからのセルゲイじいさんの意気込みはすごかった。


俺が施していた、1.3倍程度の強度の身体術を自分でできるようになり、その継続時間も延ばしていった。



一度、夜中にマクシムさんに呼び出されることがあった。


マクシムさんの家に行くと、セルゲイじいさんが変な態勢で唸っていた。

身体術に失敗して思いっきり体を痛めたらしい。


やりそうだとは思っていた。


一度で死ぬような失敗をしなくてよかったと思った。




最初に魔力で魔素を動かせてから1ヶ月程度、最初に教えてから1ヶ月半程度経った頃には、セルゲイじいさんが外で活動するようになった。


連れ合いが亡くなるよりも前と同じくらい、いや、それ以上に元気に走り抜けるセルゲイじいさんを見た近所の人は驚きすぎて唖然としていたらしい。



元気になったセルゲイじいさんを見て、エルン村長一家も俺の妹のイリナも喜んでいた。


俺も嬉しかった。


身体術を他人に習得させることに成功し、そしてそれを証明することができたからだ。


それを別にしても、セルゲイじいさんの望みが叶い、元気になったことは本当に良かったと思っている。


この作品を読んでいただきありがとうございます!


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