帰郷への旅路① 出発、道行き、自分の歌
王都を出発する日の朝。
アルト隊の訓練生以外のメンバーは、王都の外壁の東門の近くに集まっていた。
エルン村へ向かうメンバーは荷物を抱え、駐屯地に残る者は軽装なので一目で違いが分かる。
オレグとイリナから、エルン村長たちに伝える言葉を再度聞いておく。
昨日、2人が書いた手紙は受け取っているが、追加で何か伝えたいことができたらと思ってな。
あまりないようだが、王都で元気に過ごしていることについては念押しされた。
正式に南東・南部辺境開拓地域が俺の領土となったら、交代でエルン村に帰省しても全く問題なくなるから、本当に伝えたいことは直接伝えさせればいいか。
ダミエンはオレグとイリナの2人に状況判断の知識と事例を徹底的に叩き込むと意気込んでいる。
今回のエルン村行きに参加できなかったことが、よほど悔しかったらしい。
普段は落ち着いた大人として接しているダミエンが意気込んでいるので、オレグとイリナが少しビビってるな。
そうこうしている内に、王都の外壁の東門から出てきた1台の馬車がこちらに向かってきた。
その馬車には王家の紋章がでかでかと掲げられている。
俺と一緒に王都へ向かっている時に『暗闇の牙』に襲われてから、紋章のサイズを拡大しているそうだ。
『暗闇の牙』は紋章がデカくても襲ってきたと思うが、安心感が違うのかもしれない。
「バウエルン子爵。
待たせたようだな」
馬車から俺に声がかかる。
「グローフィル子爵。
公式の場以外でその呼び方は止めてくださいよ」
「はっはっは!
そうであったな!
おはよう、アルト」
「おはようございます。
サンチェスとゴバロも、よろしく頼むよ」
エルン村まで同行するグローフィル子爵に挨拶を返すと、御者台にいる護衛にも声をかける。
エルン村から王都に出てきた時も一緒だった、サンチェスとゴバロだ。
今回の旅路ではよろしく、という意味と、普段通りの呼び方でよろしく、という意味の2つの意味を込めて声をかけた。
「よろしくな!」「おう」
サンチェスとゴバロがそれぞれ挨拶を返してくる。
今回の行程が決まってから、グローフィル子爵からアルト隊用に馬車を出すかどうかを尋ねられたが、俺は断った。
アルト隊で今回の旅路に参加するのは馬車よりも速く持久力もあるメンバーばかりだからな。
早速出発することになった。
「じゃあ、行ってくる」
留守番メンバーに声をかけると、「行ってらっしゃい」という素直な挨拶や、野次のような声が飛んでくる。
「アルト隊も賑やかになったようだな」
「ええ。
他に訓練生もいますから、それなりの所帯になりました」
グローフィル子爵の感想に俺は答えた。
まあ、貴族が率いる部隊らしくないなとからかわれてもいるんだろうが、今更だろう。
王都を離れると、馬車の前後に5人ずつ分けて配置した。
グローフィル子爵たち以外で、今回の旅路のメンバーで最も体力がないのはケイトさんだろう。
それでも隊員向けではないものの身体術の訓練を重ねていたので、馬車のペースには余裕でついていけるようになっている。
もしついていけなくなったとしても、レフ兄さんが背負うか馬車に乗せてもらうかで対応できるだろう。
まあ大丈夫だと思うが。
旅路はとても順調だった。
まあ、追い詰められたローゼルスタッド侯爵家のような特殊な要因がない限りは、王家の紋章を掲げている馬車を狙う者などいないだろうが。
時折、俺が馬車に乗って最近のアルト隊の話をグローフィル子爵たちに聞かせたり、ローゼルスタッド侯爵家没落後の貴族事情の話を聞いたりすることもあった。
レフ兄さんとケイトさんが馬車に乗って、南部辺境開拓地域の事情を聞かせてもらうこともあった。
途中で寄った町や村では、リュクが吟遊詩人として歌を聞かせたり、たまに俺もそれに参加したりして歓迎されることもあった。
俺も楽器や歌はそれなりにできるからな。
リュクが悪ノリして俺に『大力のアルトの歌』を歌わせた時は参ったが。
アルト隊のメンバーはもちろん、グローフィル子爵たちも楽しんでいたようで何よりだ。
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