アルト隊第1回公募④ 昼食、隊員との模範模擬戦
午後のテストの前に昼食の時間だ。
ピエール商会から料理担当を派遣してもらって、朝に朝食と、昼食の作り置きを作ってもらっているが、今日は午後に残った入隊希望者向けにも作り置きを作ってもらっていた。
想定よりも入隊希望者が多く残ったし、ちょっと足りないだろうか。
飯くらいは腹一杯食わせてやるか。
在庫に肉と根菜、あと葉物の野菜も少しある。
野菜炒めと煮込み料理にするか。
隊員と入隊希望者に作り置きしてもらってあるものを先に食べ始めてもらい、その間に俺が料理する。
身体術で身体能力を上げながら精度を維持して、具材の切り分けを素早く終わらせる。
こちらのことが気になって台所を覗いている隊員と入隊希望者がいるが、入隊希望者の方は俺が料理をしていることとその速度に驚いているようだ。
野菜炒めはともかく、煮込み料理には時間がかかる。
そのため、このために開発した魔術の組み合わせを使う。
鍋に具材と水と調味料を入れ、鍋と蓋を遠隔の身体術で強化し、風魔術で空気を漏らさないようにする。
火魔術と水魔術で鍋の内部の水の温度を一気に上げる。
水が沸騰して鍋の内部の圧力を上げていく。
・・・魔術で圧力鍋を再現したので、煮込み料理の完成時間を速めることができる。
煮込み料理は魔術で行いながら野菜炒めも作っていく。
このマルチタスクも、もう手慣れたものだ。
大きめの鍋、大きめのフライパンで調理したので、それなりのボリュームで作れた。
作り置きのものと合わせるとそれなりに充実した昼食になるだろう。
野菜炒めと煮込み料理をそれぞれいくつかの大皿に取り分けて食堂に持っていく。
覗いていたサリム・ガッド・トメルの元傭兵3人組にも運ぶのを手伝わせる。
午前中走り回っていたのにこいつらも元気だな。
こいつらは混成部隊や国内物流で糧食担当を担っていたこともあり、相変わらず飯を作ることには興味があり、それに魔術を使うことにも関心があるようだ。
入隊希望者には、作り置きされていたものも、俺が作ったものもなかなか好評だったようだ。
入隊したら毎日食わせてやるぞというと、目に見えてモチベーションが上がっている。
心が折れるかどうかの一線で、励みになればいいがな。
昼食と昼休憩の時間を取ってから、また隊員と入隊希望者たちを運動場に集合させた。
「これより模擬戦を行い、戦闘についての能力を確認する。
まず、模範として隊員の模擬戦を行う。
最初に分隊長以外の隊員全員と俺で行い、次に分隊長2人と俺で行う」
俺が内容を宣言すると、入隊希望者だけでなく、隊員からも驚きの声が上がった。
入隊希望者たちは模範として先に見せてくれるとは思っておらず、それが1対多ということにも驚いていた。
隊員たちには予め教えていなかったので驚いたというのと、模範で見せるということの意味に気付いたのもあるようだ。
運動場の中央に俺と隊員たちが向かい合う。
オレグとイリナ以外といっても軍属のレフ兄さんとケイトさんは参加させていない。
レフ兄さんを参加させると意味が変わってしまうし、ケイトさんはまだ模擬戦ができるほど鍛えていないしな。
旧ローゼルスタッド侯爵領に侵攻した15人が、1対14となって向かい合っている。
隊員たちは戦場で使う多数向けの巨大な武器ではなく、通常仕様の武器を持っている。
隊士の9人とリュクが鶴翼の陣で俺を囲むように構え、その後ろでリュク以外の術士の4人が備えている。
模範ということで短期戦だと理解している陣容だな。
「始め!」
俺が声をかけると14人が一斉に動く。
手甲を装備しているボリス、斧を装備しているマルセル、短剣を装備しているリュクなどの武器のリーチが短めの者が最前線で、長めの棒を持つダミエンと戦場で使う大金棒を持つサブリナは少し下がった位置、他の剣を持った5人がその間の距離を保っている。
俺を囲む配置になって同時または時間差で攻撃してくる。
四方向から術士の4人が近接戦をする者の間を縫うように魔術で攻撃してくる。
それらの攻撃全てを、俺は微動だにせず受けた。
轟音が続けて鳴り続ける。
何というか、全力を込めた思い切りのいい攻撃が繰り出されてくる。
俺を信頼しているとも言えるし、日頃の恨みを込めているとも言えるだろうか。
しばらくされるがままでいて、そして俺が動き始めると、俺に対する14人は一斉にさっと引き上げ、最初の陣容に戻った。
入隊希望者は隊員に囲まれて見えなくなっていた俺が、やっと見えるようになって、俺が来ている制服を含めて全くの無傷でいることに驚いたようだ。
絵面としては、俺が隊員に全力でリンチされているように見えただろうしな。
そして次は俺から隊員の方に向かう。
俺が手にしているのは刃引きしてある剣だが、そのことに安心する隊員は一人もいないだろう。
鶴翼の陣の要になるところにいるダミエンの方へ向かい、10人で俺を迎撃しようとしているところで、右翼の一番端にいたものから一人ずつ仕留めていった。
その都度大きな打撃音と骨の折れる音がする。
今度は俺への攻撃は全て躱すか剣で防ぐ。
前衛の10人と後衛の4人を全て仕留めたところで、「終了だ!」と俺は声をかけた。
倒れていた隊員たちが起き上がり、それぞれ自分の身体術で怪我を治療していく。
慣れているといえばその通りだが、痛みを感じることには変わりはない。
苦悶の声と表情で治していく隊員たちを見て、入隊希望者たちは驚き、そして引いていた。




