新たな副業① 競争地位戦略、取扱商品の決定
俺が領地持ちの永代子爵になった。
その立場を得たことで、いろいろできるようになることがある。
正確には、邪魔させずにできるようになるってところだが。
俺は新たに副業を始めようと考えている。
その副業は、辺境農法をベースにした、アルト隊の駐屯地の近隣での農業にするつもりだ。
エルン村でアデリナさんと一緒に開発した辺境農法は、水と土と空気の魔素が濃いことがベースになっていた。
3つの要素全てをこの王都の近くで辺境と同じようにやるのはほぼ不可能だ。
作物を植える土に多くの魔素を含めること、これは可能だ。
作物の周囲の空気を辺境と同じ程度の魔素で満たすことは、非常に困難だしそこまで手をかけるつもりはない。
作物に与える水に多くの魔素を含めること、辺境の場合は辺境で水を汲めば魔素の濃い水が確保できていたが、こちらでは魔素の多い水を生成する魔術が必要になりそうだ。
土と水を辺境と同じ環境に近付けられるなら、辺境ほどの速いサイクルは無理だとしても、通常の農業よりも速く確かな量を生産できるはずだ。
マーケティングの有名な考え方で、「競争地位戦略」というものがある。
経営資源の量と質、これらの相対的な高低を組み合わせて、4つの領域を考える。
・経営資源の量も質も相対的に高ければ「リーダー」
・経営資源の量が相対的に高く、質が相対的に低ければ「チャレンジャー」
・経営資源の量が相対的に低く、質が相対的に高ければ「ニッチャー」
・経営資源の量も質も相対的に低ければ「フォロワー」
「リーダー」はその業界の最大手だ。
「リーダー」は業界内での最大手の立場の維持、業界全体の利益の維持、トップであるという名声の確保などを目的として、その潤沢な経営資源を使って全方位に戦うことが一般的な戦略となる。
「チャレンジャー」はその業界の大手であり、2番手以下の立場だ。
「チャレンジャー」は「リーダー」と同じことをやっても勝てないし、同じ物を売っていれば名声の高い「リーダー」の物が買われてしまう。
「リーダー」とは違うというはっきりとした差別化が必要とされる。
「チャレンジャー」は徹底した差別化戦略が基本戦略になる。
「ニッチャー」は規模は小さいが独自の何かを持っている、という立場だ。
「ニッチャー」は市場全体ではなく自身の独自性が活きる一部の領域を探し、そのニッチ(隙間)でのトップを狙う。
特定の場所でのリーダーを狙うミニ・リーダー戦略が基本戦略になる。
「フォロワー」は規模が小さく独自性もない、という市場に参加する「リーダー」「チャレンジャー」「ニッチャー」以外の全てが属する立場だ。
「フォロワー」は自分で商品を一から開発することもできない、やっても負けてしまうので「リーダー」「チャレンジャー」の商品を真似する模倣戦略が基本戦略とされる。
似ているけど質の悪い商品を安く売る、などでしのいでいく。
農業、農作物という非常に大きな市場にこれから参入しようとする俺たちは、間違いなく相対的な量は低いから、「ニッチャー」か「フォロワー」の立場しか取れない。
辺境農法という独自の技術を活かしていくので、「ニッチャー」の立場を取り、ミニ・リーダー戦略を採用するのが妥当だろう。
穀物のように大量にあって価格の低いものは向かないな。
王都の近くで新鮮な野菜というのはウリになりそうだが、手間の割に価格はそれほど高くできず、新鮮さが重要なら消費者に早く届ける必要があり、厳しいと思う。
いろいろ検討してみたが、俺はコミル村に行って仕入れているような希少な薬草などが有望ではないかと考えた。
コミル村と王都の環境の違いは土と水の調整と生命魔術で何とかできそうだ。
ただ、取り扱う薬草の種類については配慮すべきだと考えている。
コミル村の生計を支えている薬草の収入も、ノバック商会が開拓した仕入れのルートも潰したくはない。
無作為にコミル村の近隣の薬草をこの王都の近くという立地で栽培してしまうと、そうなってしまうリスクがあるからな。
コミル村の近隣で採取できるが王都まで運ぶことができないような薬草に限定して取り扱う対象を探した。
まず1種類の薬草、採取すると3日程度しか品質を保てず、その薬草を調合して作成する薬は調合後すぐに服用する必要がある、『ビアン草』を取り扱うことにした。
ビアン草の情報をくれたノバック商会と連携して商流に乗せるつもりだ。
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