エルン村長の過去と現状の体制
大森林探索のメンバー、スケジュール、戦術について、特に俺が気になっていたことについて、エルン村長と何度も話し合った。
現状では、基本的には戦える者を3分の2以上でメンバー編成し、ギフト持ちは必ず2名以上参加している。
エルン村長がメンバーに含まれている時は奥まで長時間かけて潜り、エルン村長がメンバーに含まれていない時はエルン村から10km以上奥には行かない。
見学メンバーは戦闘には参加せず、索敵と討伐後の解体に参加する。
戦闘メンバーは最低でも小型魔獣と1対1で勝てる実力を持つことが条件。
見学メンバーは将来戦闘メンバーになるという意欲があり、訓練に高頻度で参加している者から選抜。
大森林探索の目的は、大森林のエルン村から10km圏内の魔獣を可能な限り駆逐することと、10km以遠も広く探索し、予防的に討伐を進めることの2点になっている。
この目的設定は、従来の辺境開拓村の体制に対して、エルン村長が不備だと思ったことを改善して検討したそうな。
従来の辺境開拓地域の運営、実態については、エルン村長が生まれた、そして滅びた旧南部辺境開拓地域を子供時代に見てきたことと、エルン村長が王都で過ごした学生時代から独立戦闘部隊時代までの長期に亘って見聞したことで、知見が蓄積されていた。
エルン村長が生まれたのは南部にあった辺境開拓地域で、エルン村長は6歳の時に剣士ギフトに覚醒した。
エルン村長の両親はエルン村長が2歳の時にその辺境開拓地域で亡くなっていて、孤児が集められた家で育ったそうだ。
エルン村長の両親は王都で生活ができなくなり、辺境開拓地域に割り振られ、その南部辺境開拓地域では新参者が大森林に近い場所に住居が割り当てられるようになっていて、魔獣の襲撃で亡くなったそうだ。
エルン村長は避難用に作られていた地下室に匿われて助かった。
エルン村長には両親の記憶はほとんどなく、物心がついた時から村の農業の手伝いをして、僅かな食料を与えられ、ギフトに覚醒するまでは常にお腹を空かせていたそうだ。
その村の孤児は皆そんな扱いだったらしい。
エルン村長がギフトに覚醒すると、すぐに村の端を巡回する役割が与えられる。
支給される食料が増えたことが強く記憶に残っているそうだ。
エルン村でやっているような訓練などはなく、戦える者は各自で自主的に訓練する程度だったらしい。
エルン村長は生き残るためにも空いた時間は全て訓練に投入し、1年も経たない内に村一番の戦力だと認められるようになったそうだ。
それからエルン村長は村の端ではなく、大森林に入って魔獣を間引くようにした。
それで村に魔獣が侵入して戦闘に参加する者以外の被害が激減したそうだ。
エルン村長が8歳になった頃、安定した村だという評判からか、村に新たに移住する人間が増えたそうだ。
そしてエルン村長が9歳になる少し前、大森林から魔獣が溢れて村を襲う、スタンピードと呼ばれる現象が起き、その辺境開拓村は壊滅状態になり、生き残りはエルン村長を含めて4名の戦闘参加組だけだったそうだ。
スタンピードが起こる前日にもエルン村長は大森林に入っていたが、いつもとの違いは感じなかったそうだ。
エルン村長は王都へ連れて行かれ、ギフトに覚醒したものが通う学校で学び、戦場に出て独立戦闘部隊を有するようになり、各地を転戦するようになった。
その中で、辺境開拓地域について学び、体験することとなった。
辺境開拓地域は大森林を切り開いて建国されたアクチュア王国の大森林への最前線であると同時に生贄であること。
辺境開拓地域の運営は、他の場所でもエルン村長が生まれた南部辺境開拓村と変わらないかそれ以下の体制で、10年程度で魔獣に攻められて耐え切れずに滅びるか、それなりにうまく運営していても20年程度経つと多数の魔獣が襲来するスタンピードで滅びていること。
維持していればそれでよし、滅びれば、その滅びるまでの時間を活用して戦力を編成し、また取り戻すことで前線を維持していること。
辺境開拓地域から大森林から離れる方向に100km程度空けて、第二の前線となる街が構築され、ここを拠点にして滅びた辺境開拓地域を取り戻すこと。
エルン村長は他国との戦争以外でも、この辺境開拓地域を取り戻す戦力としても活躍していたようだ。
そうしている中で、辺境開拓地域をうまく運営する方法も考えていた。
政争で独立戦闘部隊を離れ、辺境開拓地域に送られると決まった時は、今まで考えていたことが試せるという点では嬉しくもあったそうだ。
俺からエルン村長が構築した体制に対して意見したことの一つは、まず属人的なことが多い点だった。
エルン村長の負担が大きく、またエルン村長がいるかいないかでできることが大きく変わってしまう、というのも属人的な点だが仕方のないことでもある。
それ以外でも、戦闘時の動きがほとんど一人で完結している、つまりは戦闘を分担することはあっても連携があまり見られないことが気になっていた。
その理由として、少なくとも1対1で対応できないなら、死亡リスクが高すぎて前に出せないため、一人で完結する訓練が当然メインになり、訓練していない連携を実戦で試すことは難しく、当然一人では相手をできない格上相手の連携など試すことは不可能になる、ということがあった。
小型魔獣を1対1で相手できないものは見学しているしかなく、小型魔獣を1対1で相手できても中型魔獣ではできないものは小型魔獣の相手しかできない。
集団戦闘で、多対一で魔獣と戦い、より大きい魔獣と戦う経験を積ませることはできないだろうか。
以前から考えていた、身体術や魔術を習得させることができるようになったら、戦闘における連携や戦術なども考え直したほうがいいかもしれない。
その下地は作ることができたんじゃないかな。
エルン村長に、俺の中で疑問になっていたことを尋ねたことがあった。
5歳の子供が特大型の魔獣を倒したり、それを運んだりしているのを、周りの人達が驚きはするものの、割とすんなりと受け入れていたことだ。
突出した異物は恐れられたり、忌避されたりするものではないだろうか。
「辺境で生きていくことは大変で、常に強さを求められ、死ぬということが当たり前に眼の前に存在する。そんな中で強い仲間が現れるというのは、受け入れなければ損、存在することが自分たちの得、そんな打算的な感覚というか、『使えるものは使う』みたいな常識的な感覚だろうね」
というのがエルン村長の答えだった。
エルン村長も生まれた村で剣士ギフトに目覚めたら当たり前のように戦闘メンバーに組み入れられたようだし、まさに辺境の常識ということかな。
「あとまあ、私という前例を体験しているということもある。アルトほどではないかもしれないが、私が身体術を研鑽し続け、アデリナの開発した魔術を駆使し、戦場で万を超える敵を潰したことを、独立戦闘部隊にいた者たちは見ているからね」
エルン村長が既にエルン村の人たちの前でいろいろやってきたおかげで、『ここまでやっても不思議ではない』の基準が上がっているようだ。
おかげで俺も子どもの今からいろいろ着手できている。
エルン村長に救われてから、俺は本当に恵まれた環境に置かれているんだな。
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