大きく動く『時』⑦ パレートの法則、占領の難しさ
今回のローゼルスタッド侯爵家討伐の計画で、謁見の間でヴァンサンを捕らえることは容易で確実性のある内容だった。
一方で、ローゼルスタッド侯爵家領の征圧は、先発の部隊がアルト隊だけという非常に小さいリソースで実行する、困難で不確実性の高い内容だった。
よく生産管理で使われる考え方に、「パレートの法則」というものがある。
ある物事に関わる要因を上位2割と下位8割に分けると、上位2割がある物事の8割を占めている、という法則だ。
大元は上位2割の者が全体の8割の富を有する、という話だったかな。
有仁の世代だと上位1割が全体の8割、上位1%が全体の4割とかになっていたが。
物事の優先順位を考える上で重要な考え方でもある。
重要な2割に集中すれば8割の結果が得られるということだ。
ローゼルスタッド侯爵家領の征圧における優先順位は、ローゼルスタッド侯爵家の直系の一族を押さえること、領都の支配者が変わったことを民衆に知らしめること、ローゼルスタッド侯爵家に関与していたものを逃さないことだ。
1.直系の一族を逃さないために、城では逃げ道を塞いだ。
2.領都の支配者が変わったことを知らしめるために、直系の一族を城の屋上で晒して領と全体に告知した。
3.ローゼルスタッド侯爵家に関与していた者を逃さないために、外壁の3つの門にアルト隊のメンバーを置いて1人も出さないようにした。
一番難易度の高いことは、3.の不特定多数を相手にする「ローゼルスタッド侯爵家に関与していた者を逃さない」だ。
そして、一番ミスが許されるのもこれだ。
仮に何人かが領都の脱出に成功しても、直系を押さえておけば後は小者しか残っていないからな。
逃げたところで大したことは出来ないだろうし、後で追跡もできる。
他にもできれば達成しておきたい要因はいくらでもあった。
・領都の領民の生活に影響を与えない
・次の支配層のために施設を温存する
・ローゼルスタッド侯爵家に属していたギフト持ちを確保する
などだ。
ただ、上位2割からは漏れるし、これらを達成するために1.から3.の要因を達成できなければ、間違いなく8割未満の結果になっていた。
そのため、取捨選択した上でこれらの要因は捨てた。
結果として、1.と2.は100%達成できただろう。
3.もかなりの確率で達成できるメンバーに各門を任せている。
まあ、労力的に一番大変なのはこれからだったりするんだけどな。
戦争、戦闘で勝利することと、占領することでは、必要な要素が大きく異なってくる。
どれだけ敵に勝つことが出来ても、勝った後に占領し続けることは話が別だ。
有仁の世界のイラク戦争なんかが典型例だな。
戦争で勝利することは、人数や装備、兵器の質などで圧倒していれば容易にできる。
だが、勝利した後に占領することが容易だということには繋がらない。
制空権を握って空爆を続けて勝利できても、占領するには人数と資源をかけて地上で活動する必要がある。
現地の治安の維持、ライフラインの維持、国家としての活動の支援などやるべきことが格段に増える。
それをアメリカ軍では担いきれなくてPMC(民間軍事会社)にリソースを依存するようになり、それでも回らなかったんだからな。
アルト隊の15人だけでこの領都の占領を継続できるわけがない。
国王との打ち合わせではアルト隊の次に国軍の騎馬のみの部隊を送ると決めたが、ヴァンサンを不意打ちで仕留めるために様々な方面に内緒で進めていたから、ヴァンサンを捕獲してから国軍を召集する必要がある。
千人程度で編成して送り出し、領都に到着するまでに最短でも6時間はかかるだろうか。
これから5時間以上はアルト隊だけでこの領都を確保し続けなければならない。
騎馬のみの部隊の後は、歩兵中心の大隊をまとめて派遣して占領することになっているが、それが編成されて到着するまでには1日では足りないだろう。
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