大きく動く『時』⑥ 一族確保、占領宣言
捕まえた騎士に案内させ、ヴァンサンの長男と次男のもとに行くと、どちらも俺が姿を表すと諦めたように項垂れ、ヴァンサンの後妻と三男のジュリアンがいる部屋へと向かう俺たちについてきた。
本館で働いている使用人たちは、巻き込まれないように早々に旧ローゼルスタッド侯爵家の一族のいる場所から逃げたようで、長男と次男を連れてからジュリアンたちのいる部屋に向かう途中では誰ともすれ違わなかった。
ジュリアンたちのいる部屋の扉の前に到着した。
案内をさせた騎士に「もういいぞ」と伝えると、すごい勢いで90°の礼をした後、走り去っていった。
強い者に全力で媚びる気質なんだろうが、行動が極端だな。
リュクがまた笑いを堪えている。
ジュリアンたちの部屋の扉に鍵がかかっていたので蹴破った。
扉はそのまま奥の壁にぶち当たって弾け飛んだ。
部屋の中には天蓋付きのベッドに据えられた手足のないジュリアンがいる。
その横で椅子に座る化粧の濃い女がおそらくは後妻だろう。
後妻は長男より少し歳上なくらいと聞いていたが、かなり老けているように見えるな。
ジュリアンの地位が落ちて、苦労したからだろうか。
化粧の濃さでも老けていることを誤魔化しきれていない。
そのヴァンサンの後妻が椅子から立ち上がり、化粧が剥がれ落ちそうなほどの凄まじい表情になって、奇声を上げながら俺に跳びかかってきた。
俺はすっと避けて、髪を掴んで床に顔面を叩きつけた。
後妻は気絶したようだ。
正直なところ、ホラー映画に出てきそうな化物ぶりで、少し驚いた。
「アルト・・・」
ジュリアンが俺を見て掠れた声で呼びかけてきた。
下町で手足を斬り落とした時に顎も砕いたが、声を出せるくらいには治っているようだ。
長男と次男と同じように、諦めたような目をしている。
何か意味があって声をかけてきたわけではないようだな。
「リュク、それを持ってきてくれ」
床にうつ伏せになっている後妻を指しながらリュクに頼んだ。
「えっ」と意外さと嫌さが混じった声でリュクが聞き返し、少し項垂れながら「しかたないなー」と後妻を仰向けにして俵担ぎにした。
俺はジュリアンの首の後ろを持ち、長男と次男に「ついてこい」と指示をして、ジュリアンの部屋を出た。
俺たちは本館の屋上に上がった。
6階建ての高さの屋上で、領都にはここ以上の高さの建物がないので、見晴らしが良く、領都全体が見渡せる。
長男と次男を並ばせ、リュクに後妻を屋上の壁にひっかけさせた。
ジュリアンは後妻の横の屋上の壁の上に乗せた。
「旧ローゼルスタッド侯爵家の直系の一族は確保した!
当主であったヴァンサンは既に王都で獄に繋がれている!
これより、旧ローゼルスタッド侯爵家領は、王家によって治められることになるだろう!」
俺は大声を上げ、風魔術で領都全体に声を届けた。
家に閉じこもってやり過ごしていた領民たちがちらほらと家から出て、声のするこの本館を見上げている。
「旧ローゼルスタッド侯爵家の統治は、他の領地と比べても厳しいものだった!
王家による統治は、旧ローゼルスタッド侯爵家による統治よりも楽になるだろう!
まもなく、王都から国軍がこの領都に来る!
事態が落ち着くまで領都の外に出ないように!」
はっきりとメリットを示してやると、領民から少しずつ歓声が上がり始め、やがて領都中から歓声が上がるようになった。
少数の旧ローゼルスタッド侯爵家から利益を得ていた者以外は、王家による統治の方が格段に楽になるだろう。
いつ来てもどこか重苦しい雰囲気だったこの領都が、今は祭りのような騒ぎだ。
まあ具体的にどうなっていくかを理解している者はほとんどいないだろうが、元が酷すぎたから期待外れになることはないだろう。
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