大きく動く『時』② ヴァンサン捕縛
「ローゼルスタッド侯爵家はその地位を剥奪し、これより貴族とは名乗れないものとする。
そして、先に述べた罪以外にも罪があればそれを明らかにし、刑罰に処す。
アルト・バウエルンよ!
罪人ヴァンサンを捕らえよ!」
「はっ!」
俺は国王の命令に返答し、元ローゼルスタッド侯爵家の当主、ヴァンサンの方へ向き直る。
ヴァンサンは軍事閥の中でも役職を免ぜられ、地位が低下しているからか、謁見の間の隅の方にいた。
ヴァンサンの周りにいた貴族は巻き添えにならないように遠ざかっている。
相当に肥えた男、ヴァンサンの周りには5人の取り巻きしかいない。
俺は歩いてヴァンサンの方へ近づく。
通り道にいた貴族は巻き込まれたくないようで、通り道から大げさなほどに遠ざかっていく。
ヴァンサンはエルン村長がエルン隊を結成した当時から、ローゼルスタッド侯爵家の当主として軍事閥のトップとして高い地位にあったと聞いている。
エルン村長がエルン隊を抜けることになったことも、
イゴール父さんとエレナ母さんが敗戦の殿となって死んだことも、
エルン村にスタンピードを仕掛けてきたことも、
全て、こいつが主導していたということだ。
ヴァンサンとの距離が近づいた。
ヴァンサンと歳の近い取り巻き5人がヴァンサンの前に出る。
「随分と殊勝なことだな。
平民となった、いや、平民以下の罪人となったヴァンサンに義理立てするのか」
俺が取り巻きたちに声をかけると、取り巻きたちは目を見開き、互いに顔を見合わせる。
そして、取り巻きたちも脇に退いていった。
長年取り巻きとしての立場でいたから、頭の切り替えができていなかったんだろうか。
5人揃って、今気付いたような顔をしていたな。
「貴様ら!」
ヴァンサンが取り巻きたちに怒鳴っているが、取り巻きたちは離れたまま顔を背けている。
俺がヴァンサンの前に立ったところで、俺に向かっても何か言おうとしている。
俺はヴァンサンの両腕を掴み、肩関節を外す。
「ぎゃあああああああああああああああああ」
ヴァンサンが絶叫を上げる。
続けて右太腿の骨を蹴り折り、左太腿の骨も蹴り折った。
地面に倒れる前に首を掴み、気絶させた。
俺はヴァンサンを仰向けにして俵担ぎで元にいた場所に戻っていった。
謁見の間は静まり返っていた。
俺は元の位置に戻ってヴァンサンを下ろした。
ダミエンは事情を知っているので落ち着いていたが、近くにいたクレマン・ラングマンはまだ事態を呑み込めていないようだった。
「罪人ヴァンサンを捕らえて参りました」
「うむ、大儀であった。
ヴァンサンは以前エルン・ソーディスの報告で辺境開拓地域のスタンピード誘引を主導した疑いが示されていた。
余罪も含め、しかと詮議する」
俺が報告し、国王が宣言すると、近衛兵が4人やってきて、ヴァンサンを外へ運び出した。
国王はまだ立ち上がったままだ。
貴族たちは再びざわめき始めた。
「ローゼルスタッド侯爵家は既に廃されておるが、ローゼルスタッド侯爵家の旧領は未だヴァンサンの親族が治めておる。
アルト・バウエルンよ!
アルト隊を率いて旧ローゼルスタッド侯爵家領を押さえ、ヴァンサンの親族を捕らえることを命ずる!」
「はっ!
直ちに向かいます!」
国王の命令に答え、俺は踵を返して謁見の間を出る。
ダミエンも俺についてくる。
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