たった1人のアルト隊⑥ 二度目以降の斬り込み、終戦
さあ、たった1人のアルト隊だが、正面から先陣を切ってやるとしようか。
回れ右をしてアクチュア王国軍に背を向け、トロイト王国軍の方を向き、剣を掲げる。
トロイト王国軍の中央にいる兵士からは俺の剣が薄く見えているだろう。
剣を掲げたまま、100m10秒のアルト隊の標準速度でトロイト王国軍の中央に向けて走り出す。
敵軍に生命魔術も精神魔術もかけてデバフ状態にしたりはしない。
アルト隊としての標準とするつもりの戦い方で、今回はやってみるつもりだ。
トロイト王国軍の最前線まで後100mという距離で、剣を水平に構えた。
「大力のアルトの前に立つ敵は、すべて殺す!」
そう大声で宣言すると、正面にいるトロイト王国軍の兵士たちが顕著に動揺し始めた。
俺の進行方向から外れようと左右に走って逃げる者もいる。
リュクの歌による宣伝効果が形になってきたな!
うまく俺から半径10mの範囲から逃げた者は見逃そう。
逃げて助かった者が、また語って広めてくれるだろう。
剣を左右に振るい、留まった者と、逃げ遅れた者をぶった切った。
やはり刃を薄くしたから原形が結構残るな。
血肉だけか、少し形が残っているか、まあどちらでも同じくらい恐怖の対象になるか。
血肉が高く飛ぶように計算して剣を振るう。
俺の正面にいる者たちだけでなく、遠目にも蹴散らしながらトロイト王国軍の奥に侵入しようとしている様子が伝わるだろう。
アクチュア王国軍の兵士からも、よく見えるだろうな。
俺がトロイト王国軍の半ばほどまで侵入した頃、アクチュア王国軍全体が進軍してトロイト王国軍に当たろうとしていることを察知した。
やはり今回のあの将軍は、そこまで無能で無気力でもなかったようだ。
中央から真っ直ぐトロイト王国軍に切り込んでいったが、その経路上に敵の本陣があることを察知したので少し右寄りに進んで本陣を避ける進路を取った。
俺だけで戦争の勝敗を決めることを、今回は避けようと思っていたからだ。
バーレイ将軍のような有能な将軍が率いる以外の軍で、どこまで戦えるのかを今のうちに確認しておきたかったからな。
それにまともに軍を動かせるなら、俺だけで手柄を独占しない方がいいかとも考えた。
俺がトロイト王国軍を縦断して通り抜けた頃には、アクチュア王国軍とトロイト王国軍が戦闘に入っていた。
生命魔術や精神魔術によるデバフはかけていないが、士気が下がり、俺に二度も侵入されたトロイト王国軍は浮足立っていて、最初に見かけたような統制は見る影もなかった。
アクチュア王国軍が優位に立って戦えているようだ。
だが、俺がある程度減らしたとは言え、数は互角、トロイト王国軍が態勢を立て直したら、アクチュア王国軍側の被害が大きくなりそうだな。
トロイト王国軍の左翼、アクチュア王国軍から見ると軍の右側の更に右の誰もいない空間を、剣を立てて走る。
トロイト王国軍の右端の方にいる兵士は、更に右を前線の方に走る俺を見てこちらにこないでくれと祈っているような視線を向けてくるな。
前線に近いところ、アクチュア王国軍の最前線がまだ到達していないあたりで右に曲がり、トロイト王国軍を斬り払いながら横断する。
アクチュア王国と直接戦っているトロイト王国軍の前線の兵は、後ろから血肉が飛んできて、更に俺が横断しているところより後ろの兵士が進むことを躊躇して前線だけが孤立していることを理解し始めて、アクチュア王国軍にかける圧力が激減した。
俺がアクチュア王国軍から見て右から左に横断し終えた頃には前線の勝負はアクチュア王国軍の勝利でほぼ決していた。
俺は左側に抜けた後、トロイト王国軍の最初の全軍を前後に3分割する線を2本引いたならその後ろ側の線に当たるラインを、今度は左から右に斬り払いながら横断する。
トロイト王国軍は前後に分離され、前方に分離された兵のみでアクチュア王国軍と戦闘になり、アクチュア王国軍が数の優位と勢いの優位を活かして前方のトロイト王国軍を壊滅させた。
トロイト王国軍は本陣と後方の兵を合わせても3千人ほどになり、アクチュア王国軍1万1千以上の兵と対峙した。
程なくして、トロイト王国軍の本陣から武装を解いた将兵がアクチュア王国軍の方に進み出た。
トロイト王国軍の降伏で、今回の戦いは幕を下ろすことになったようだ。
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