初めての大森林探索③
戦闘メンバーが中型5頭と戦っている間に猿型が3頭増えたらしく、今はキリル兄さんが相手をしている猿型1頭を残して他7頭は討伐済になっている。
全長6mほどで高さ4mほどの猿型魔獣を相手に、キリル兄さんは油断せず相手の攻撃を捌き、手足にダメージを与え続けていた。
猿型魔獣が弱り、より前傾姿勢になったところで、キリル兄さんは剣への身体術による強化を強め、首を狙って剣を振り、首の半分ほどを断ったところで猿型魔獣は力尽きて倒れた。
「よし、中型は村に持って帰ろうか」
エルン村長の掛け声で倒した魔獣それぞれの処理をする。
解体は村に帰ってからやるので、血抜きやいらない部分の処理が主な作業だ。
「アルト、お前すごいな」
「訓練で分かっていたけど、大したものだね」
エフゲニさんとキリル兄さんが、俺が倒して処理した狼型3頭を見て声をかけてきた。
「へへっ」
と俺は笑って見せる。
まあ、謙遜しても自慢しても変なカンジがするし、笑ってごまかそう。
エルン村長、キリル兄さん、エフゲニさん以外の戦闘メンバー4人は俺が倒して戻ってきたことに初めて気づいて驚いている。
そちらにも何か声をかけようと思ったが、
「正面、距離1000、大1、熊型、アルトが対応します」
1km先で全長18m程度の熊型の魔獣が俺達に気づいた気配があったので、俺が対応することにした。
エルン村長以外の探索メンバーが呆気に取られている中、歩いて正面方向に進む。
熊型魔獣はこちらに向けて4足で走っていた。
8頭の中型魔獣を倒した場所から100mくらいのところで熊型魔獣と接敵した。
そのまま体当たりでもしてくるかと思ったが、剣を持って歩いてくる子供が不気味だったのか、立ち上がってこちらを威嚇してきた。
立ち上がると15m以上の高さになり、その大きさに感心する。
有仁の世界だと5階建ての建物の高さくらいかな。
こちらに攻撃を仕掛けてくる気配があったので、先手を打って飛び上がり、熊型魔獣の首を斬る。
首周りの直径は3m以上ありそうで、刃渡り1m程度のロングソードだと1回で切り落とせないな。
そのまま熊型魔獣の後ろまで飛び、足場を空中に作り、折り返して先ほど斬りつけた左側と逆の右側に斬りつける。
まだ首はつながっていて、魔獣の生命力はまだ尽きなさそうなので、熊型魔獣の正面からもう一度足場で折り返し、正面から斬りつける。
切り落としてはいないものの、首の骨は断ち、少しの肉と皮で体と繋がっていた首が背中側に倒れ、そして熊型魔獣の命が尽きて、首だけ空を向いたまま、うつ伏せで倒れた。
なんとか熊型魔獣の血を浴びずに片付けることができたな。
また土魔術で穴を掘り、水魔術で熊型魔獣の血抜きをする。
「大型魔獣も簡単に倒せるのか。大したものだね」
エルン村長が微笑みながら声をかけてきた。
他の探索メンバーは声が出ないようで、口をパクパクしている人もいる。
「大型魔獣を無傷で倒せるのは今まで私だけだったから、とても心強いよ」
「僕の力が通用しそうですし、お役に立てそうで嬉しいです」
エルン村長は俺の力量をある程度掴んでいただろうけれど、実際に通用することが分かってほっとしたのかな。
結構嬉しそうだ。
「通用するとかじゃねーだろ!ここまでかよ!」
マクシムさんが我に返ったようで声をかけてきた。
それを皮切りに他の探索メンバーも声をかけてくる。
興奮したマクシムさんやエフゲニさんにバシバシと肩を叩かれたりしながらも笑って流す。
大森林で俺の力が十分に通用すると、探索メンバー全員に認めさせることができたかな。
今日の目的は達成したとみなしても大丈夫だろう。
「さて、こいつも持って帰りますか?」
少し皆が落ち着いてからエルン村長に熊型魔獣の扱いを尋ねた。
「そうだね。切り分けてから運ぼうか」
「解体はいつも肉を切り分けて配っているところですよね?あそこに運べばいいですか?」
「できるのかい?それならお願いしようかな」
「はい」
エルン村長の許可が取れたので、熊型魔獣を身体術で強化し、うつ伏せの状態で固定したまま持ち上げ、大森林の木より高いところに飛び上がり、足場を作って空中を走った。
いつも訓練している場所の近くに、肉を切り分けている解体エリアがあるのでそこに熊型魔獣を置く。
なんだか人がいっぱい集まってきた。
全長18mの熊が空を飛んできたら、さすがにみんな驚くか。
集まってきた人たちに今回の探索での獲物だと説明し、あまり納得してなさそうだったけど、他のメンバーを待たせているからと空中に飛び上がって、また足場を作って空中を走り、探索メンバーのところに戻った。
熊型魔獣を持っていって帰ってくるまで3分程度だったけど、エルン村長以外の探索メンバーはまだ呆気にとられた顔で固まっていた。
「熊型魔獣は解体場所に置いてきました」
「いやーすごいね。さすがに私もアルトがそこまでできるとは思っていなかったよ」
「ギフトに覚醒してからそれなりに習熟できて、自分にできることの幅が広がってきました」
「うん。アルトに初めて説明してもらったときもすごいギフトだと思っていたけれど、私の想像を超えていたよ。アデリアもレフも想像以上だと驚いていたけれど、今日ようやく2人の気持ちが実感できたよ」
エルン村長はニコニコと微笑んで喜んでくれているようだ。
他の探索メンバーはなんだか疲れたような顔をして、首を振ったりしている。
「まー、うん。思っていたよりも心強い仲間が増えたってことだな」
首を振っていたうちの1人のマクシムさんが乾いた笑いを浮かべながら言ってきた。
他の探索メンバーも「あー、すごいな」「大したもんだ」と低めのテンションで声をかけてくる。
いろいろ一気に見せすぎた気がするけれど、口で説明してもあまり伝わらなかっただろうし、まあ、俺の立場は確立できたかな。
時間が経てば「そういうものだ」と受け入れられるだろう。
処理が済んだ中型魔獣の獲物を分担して持ち、帰途についた。
二度小型魔獣の襲撃はあったものの、手を空けていたエルン村長だけで簡単に討伐し、大森林を抜けてエルン村に帰ることができた。
エルン村長以外、ちょっと放心状態になっていたから、帰り道の魔獣はエルン村長が引き受けることにしたんだろうな。
解体場所に行くと、俺が熊型魔獣を置いたときよりも多くの人が集まっていて、アデリナさんやレフ兄さん、その弟のオレグや俺の妹のイリナまで興奮して詰め寄ってきて説明が大変だった。
少し騒がせてしまったけれど、探索メンバー以外にも俺の力を認めてもらうことができたように思う。
信頼と実績を重ねて、エルン村の改革にも賛同してもらい、いろいろ進めていきたいところだな。
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