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大力(嘘)で身を立てる  作者: ろん
第二部 王都進出

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ピエール商会② 『性弱説』

ピエール商会を設立してからの倉庫も見せてもらった。


種類別に商品を置くエリアを区切って、作業する者の動線が確保され、清掃も行き届いた、最初に見せてもらった倉庫から大きく変わったことが一目で分かる様子に驚かされた。


5S活動にも本気で取り組んだんだろうな。


俺がたまたま時間があって見に行った時に、整理・整頓・清掃ができていたということは、それを維持するための清潔・躾もできているということだ。


本当に実施するならと、いくつか注意点として伝えたことがあったが、それもうまく使ってくれたのかな。



倉庫が雑然とした状態から整理整頓された状態になると、従業員にとってデメリットになるかもしれないことがある。


倉庫から物をパクったりすることができなくなるということだ。


程度の差はあれ、やっていただろうな。


倉庫に何があるのか誰も把握できていない状態、そこで数量の多い商品を少量パクっても、まずバレない。

最初は汚れて売り物にならない商品を処分せずに懐に入れる、などから始まるだろうか。


モラルのある従業員が揃っていても、少しずつそうなっていくものだ。



有仁の世界で、日本のセキュリティは『性善説』に基づいて人の良心に頼っているから甘い、欧米のセキュリティは『性悪説』に基づいているから厳しい、みたいな話があった。


日本でも内部統制について検討されるようになり、上場企業が内部統制監査を受けるようになって真剣に考えられるようになった頃は、よく話題に出ていたな。


有仁は内部統制を専門とするコンサルと一緒に働くことがあったが、その人の持論を何度も聞いて、よく憶えている。


内部統制は、『性善説』で考えるのではない。

『性悪説』で考えるのでもない。

『性弱説』で考えるべきだ。



人間の本質が善だから悪いことをしない、人間の本質が悪だから悪いことをする、ではなく、人間は弱いから悪いことをしてしまう。


よい人間でも、自分の親族や友人が病気になり、お金があれば助かるという時に、自分の会社でお金を移動させても誰にもバレない方法が見つかったら、やってしまうこともあるだろう。


上司や同僚に人格を否定されるようなことを言われた後、会社のシステムでなりすましができることが分かったら、上司や同僚としてログインしてあいつらの不利になることをしよう、と魔が差すこともあるだろう。



会社を経営する者は、内部統制の仕組みを導入するという者は、弱い人間が悪いことをしなくても済むように、内部統制を考えるべきだ。


そう、その人は言っていた。



自制心や忍耐は、消費される。


行動心理学の実験で、そんなことも報告されていたな。


2つの集団の1つにだけ、自制心を発揮させるようなストレスを与えた後、2つの集団に自制心を試すテストをすると、有意にストレスを与えた集団の結果が悪くなるそうだ。



『性弱説』で考えるなら、経営者は自制心に頼るような体制にしていたことが悪い。


だから、5S活動を導入する時は、過去の過ちに触れないことをピエールに助言した。


合わせて、倉庫の状態を定期的に全員で確認し、5Sが行き届いていれば臨時報酬を与えることも助言した。


5S活動を導入することで、従業員に不利益になったと思わせず、仕事がしやすくなり報酬をもらえる機会ができたと認識してもらうこと、それと清潔(整理・整頓・清掃されている状態を維持すること)と躾(整理・整頓・清掃・清潔を人に意識付け、行動させること)の仕組みとして機能させること、が狙いだ。



考え方が妥当でも、実際に運用できるかは話が別で、そこはピエールの力量にかかっていたが、見事に運用できているようだ。


ピエールとは長い付き合いになりそうだな。


この作品を読んでいただきありがとうございます!


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