初めての戦争① 出発、提言、挑発
第13大隊第5中隊で1ヶ月ほどの時を過ごした。
1週間に2日休みがあるし、日が暮れると終業になるので、割と自分の時間も取れている。
第5中隊での訓練は体力をつけるためのものが多いが、俺の提案で集団戦闘の訓練も始めている。
局所的に人数差を作って敵を倒すための訓練だ。
生き残るために重要な訓練だと説明したら、中隊の連中は割と真面目に参加している。
小隊の指揮官になる平民士官たちには何パターンかの陣形も伝えている。
これも状況に応じて生存率を上げるために役立つだろう。
そういった方面の教育がアクチュア王国ではあまりされてないんだろうな。
哨戒任務で会敵したトロット王国の部隊はその辺りがかなりしっかりしていた。
トロット王国の軍全体がそうであれば、アクチュア王国が互角にやりあえているのがおかしいから、あの部隊が特別だったのかもしれないが。
この中隊だと弓や弩を扱える者が少ないが、集団で石を投擲する訓練もさせておけば、戦術の幅も出るだろう。
トロイト王国との戦争が始まるという告知があり、第6から第15大隊までが出兵の対象になるらしい。
第13大隊も出兵対象だ。
アクチュア王国側だけでも1万人以上の兵力か。
なかなかの規模だな。
王都に駐留している大隊は第11から第13の3大隊で、他の大隊は王家直轄領や貴族領から戦地に向かうらしい。
第13大隊の駐屯地で5つの中隊の者が集まり、偉そうな士官が訓示を垂れていたが、前にいる貴族出身の士官以外、ほとんど誰も聞いていなかった。
いつものことなんだろう。
訓示を垂れている士官も気にしていないようで、話し終えたら馬に乗って出発した。
貴族出身の士官がそれに続き、5つの中隊の平民士官と兵士はだらだらとそれに続いていった。
まあ、隊列を組む訓練など俺が来てから一度もなかったし、こんなもんなんだろう。
中隊ごとに輜重隊を抱えていて、食料や野営設備などはそこに積まれているようだ。
第13大隊は南側の中央大通りに出て、外壁の門へと進んでいく。
軍以外の者が大通りに誰もいないので、移動はスムーズだ。
外壁の普段は閉めたままになっている巨大な門が開いていて、そこを通っていく。
王都の南側の門を出た後も立ち止まらずにそのまま東の方へ進んでいく。
第11大隊と第12大隊は東西の門から出てきたのか、離れた位置で固まって動いているのが見える。
3大隊が集合する様子もないので、今回の戦争に参加する軍が集合するところまで別個に動くんだろうな。
だらだらとした行軍が続きそうだ。
トロイト王国側からすると、こちらの動きは分かりやすいだろうな。
王都を出て12日後、国軍の集合地に到着した。
第13大隊は中隊同士の連携もあまり取れておらず、第5中隊で固まって移動していたが、食事が充実していた、俺がさせていたんだが、そのおかげで体力や士気が高いままに移動できていた。
他の中隊から恨みがましい目で見られていたが、さすがに大隊全部の食事を用意までは面倒だからスルーしていた。
第5中隊の貴族出身の士官も妬むように見ていたが、こちらに声をかけてこなかったので無視した。
第13大隊の到着が最後だったので、今回の戦争に参加する軍全体が集まった所で、将軍の作戦説明があった。
風魔法のギフト持ちを連れてきているのか、万を超える兵士全体に声が届いていた。
ただ、そこまでする必要があるのか微妙なほど、作戦は単純だった。
大隊の進む順番を決め、会敵予想地まで進む・・・これだけ。
後は自分の経歴自慢と精神論の話だけだった。
大隊の進む順番は単純に第6大隊を先頭に番号順で進む、という話だった。
先ほど作戦説明をしていた将軍は第15大隊、つまり最後尾について進むそうだ。
第12大隊が出発し、第13大隊が出発する準備を始めた頃、第15大隊の方を見ると天幕に将軍や上位の士官が集まり、酒を飲んでいる様子だった。
さすがに驚いた。
行軍中の指揮とかは考えないのか?
トロイト王国がこちら側に浸透して、行軍中に個別撃破しようとしてきたらどうするんだ?
当たり前のように行軍が進められ、当たり前のように酒を飲んでいるところを見ると、これが常態なんだろうな。
俺は騎士の身分を利用して、酒を飲んでいる将軍たちの所に赴き、行軍中に狙われる恐れについて伝え、斥候を出すように提言した。
当然のように却下された。
集合地から出発して2日後にも同様に提言し、却下された。
集合地から出発して4日後、全軍がアクチュア王国の国境を明確に越え、ポールラント平原に入った所でまた斥候を出すように提言し、却下された。
集合地から出発して6日後、そろそろ会敵の可能性が高まってきたと思われる時に、また斥候を出すように提言した。
軍の指揮官は酒に酔った赤ら顔で、苛ついて「うるさい!」と怒り出した。
「そこまで言うならお前たちの中隊だけで斥候に行ってこい!
ついでに威力偵察、一当てして十分に敵を知るまで帰ってくるなよ!」
指揮官は言い出し、指揮官の周りの士官はニヤニヤと笑っていた。
不快な忠告を何度もしてくる平民出身の騎士に、死地に行けという命令が出て楽しんでいるんだろう。
・・・計算通りに進みすぎて、拍子抜けだな。
同じ内容を何度も提言していれば、キレて「自分たちでやれ」と言ってくると思っていた。
思っていたよりも忍耐力があったのか、敵が近くなるまで言ってこなかったのは、こちらにとってもより好都合だったな。
この手の無能者は、有仁の世界と同じで、行動が予測しやすくて助かる。
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