国軍入隊② 第13大隊第5中隊
王都の南東の方にある第13大隊の駐屯地の方に向かう。
駐屯地が近づいてくると、どこかうらぶれたと言うか、頽廃的な雰囲気に変わってきた気がする。
歓楽街でもないのに、娼館があるな。
第13大隊の兵士御用達、という位置づけだろうか。
内壁に近い場所にある駐屯地の周りでは、こんな雰囲気じゃなかった気がする。
大隊の統制度合いなどと関連しているのかもしれないな。
第13大隊の駐屯地に到着した。
ギフト保有者養成学校のように、建物と運動場があるが、学校よりも運動場の割合が格段に大きいな。
敷地面積は王都の端の方とはいえ、結構広いな。
その敷地全体が、それほど高くはない、80cmくらいの高さの塀で囲まれている。
建物は若干古ぼけている気がする。
学生寮のように並んでいる建物があるが、あちらは兵舎だろうか。
駐屯地の入口、門は開いたままで特に門番もいないところを通り、入口近くの建物に入る。
国軍の人事担当士官が渡してきた地図によると、ここがこの駐屯地の事務所らしい。
カウンターがあるが、そこには誰もおらず、その奥で軍服を着た事務員のような者が4人立ち回っている。
「本日付で第13大隊所属となりました、騎士のアルトです」
事務員が立ち回っている所に声をかけると「ああ、はいはい」と1人の男が俺の方に来た。
カウンターの方に促されたので、そちらに向かう。
「話は聞いているよ。今年の『御前武試』の優勝者、大力のアルトがここに来るってね」
席に座るように促され、促した男もカウンターを挟んだ向こうの席に座り、柔らかい口調で話しかけてきた。
ここの事務員は平民出身ばかりなのかもしれないな。
貴族家でもまともな人間がいることは知っているが、貴族特有の身分意識が感じられない。
俺が何を悟ったかを、理解したように事務員が軽く頷き、特にそこには触れずに話を進めてくる。
「事前に兵舎の利用はしないと聞いているよ。
ここでのあなたの立場は・・・」
聞いた説明をまとめると、次のようになる。
・俺は騎士という地位にはあるが、身分に関係なく、大隊での命令系統・職位には従うこと
・身分と職位のどちらが尊重されるかは、はっきりとした定めはなく、両方尊重されている
・第13大隊は第1から第5までの5中隊が存在する
・俺は第5中隊に所属することになる
・俺は第5中隊での職位は定められず、平隊員からスタートする
・大隊ごとに制服の色が定められ、第13大隊は鼠色であること
・第13大隊は国軍の大隊の中で最底辺の評価を受けていること
他にもいろいろ話を聞けたが、重要なのはこれくらいか。
説明の後に身体測定を受け、鼠色の制服3着を受け取り、更衣室で制服に着替えた。
騎士のバッジを制服に装着し、また事務員の下に戻る。
「うん。制服が似合っているね。
本日入ってきたとは思えないくらいだ」
事務員は世辞が入っているかもしれないが、褒めてくれた。
そして、第5中隊に案内してくれると言うのでついていく。
鼠色というのは、江戸時代に派手な色が禁止されて、その中でも少しでも粋な色合いを目指して使用された色じゃなかったかな。
この制服では少し暗めの灰色で、落ち着いた色合いで俺は結構気に入った。
ただ、灰色系統の色というのが見窄らしいと、士官だけでなく一般兵士にも不評らしい。
第13大隊の色という印象もあってより嫌なイメージがついて、負の相乗効果を発揮しているのかもしれないな。
制服の洗濯や補修・新調は、専門の業者がいて、回収用の袋に入れておくとやってくれるらしい。
大隊ごとに出入り業者は違うんだろうか。
第13大隊だけでも1000人程度の人数が制服を着用しているようだし、結構な利権になっていそうだな。
・・・特にその利権に割って入ろうとは思わないが。
そんなことをつらつらと考えていると、第5中隊の区画に到着したようだ。
3つほどの大きめの建物があり、かなり広めの運動場があって、そこで制服を着た兵士が訓練していた。
一番手前の建物に中隊長がいるらしい。
案内してくれた事務員は、建物の手前で去っていった。
中隊長に会うのが面倒だったんだろうか。
建物の扉を開けて中に入る。
士官らしき者が10人ほどいた。
おそらく士官だと思われるが、制服を着崩して、カードゲームに興じている者や、酒を飲んでいる者までいる。
勲章らしきものを多くつけているのが中隊長だろうか。
カードゲームをしているところを、頬杖をついてのんびり眺めている。
「本日付で第5中隊に入隊しました、アルトです」
俺が建物に入ってきた所で気付いた者もいたが、念のために声をかけた。
こちらに向けてくる視線は・・・苛立ちと敵意か。
「貴様が平民上がりのアルトか。
とっとと表に出て、訓練に参加してこい」
中隊長らしき者がだらけた姿勢のまま言ってくる。
他の士官はこちらを見てニヤニヤと嘲笑っている。
「はっ」
短く答え、回れ右をして建物を出る。
何というか、分かりやすい連中だったな。
あそこにいる士官は貴族家の出身ばかりなんだろう。
運動場で訓練に参加している士官もいるが、あちらは平民出身かな。
建物の中の士官にも、表で訓練している士官や兵士たちにも、ギフト持ちはいないようだ。
この大隊全体にもギフト持ちはほとんど配属されていないのかもしれないな。
運動場で訓練している兵士が小休止に入ったところを見計らって、声をかけた。
「本日付で第5中隊に入隊しました、アルトです」
「おおっ!『御前武試』で見たぞ!」
「ギフト持ちがついにウチに入隊かー」
ちょっと思いもよらなかった程の歓迎ムードだな。
士官たちに話しかけると、「どの小隊に入ってもらうか、取り合いになるだろうな!」とこちらも歓迎ムードだ。
話を続けると、どうも前に参加した混成部隊でのことが知られていたようだ。
混成部隊は傭兵だけでなく、国軍のはみ出し者も参加していたが、この第5中隊からそちらに行ったり来たりする者もいて、馴染みがあるらしい。
直接戦う身としては、部隊を勝たせてくれるギフト持ちの存在は嬉しいものなのだそうだ。
それに、行軍中に飯が旨くなった話も伝わっているらしい。
貴族出身の士官たちを除けば、ここでもやりやすそうだな。
上層に面倒なヤツらが固まっている時点でやりにくさはあるかもしれないが、戦場に出さえすれば何とかできる算段はある。
居場所をしっかりつくるためにも、ここにいる士官や兵士たちとは交流を深めておこう。
その日は、混成部隊の時にやった力試しを、人数を増やして受けたり、簡単な魔術を見せたりして、俺が有用であることを示してみせた。
有用さよりも大道芸的なエンタメのような方向でウケた気もするが、まあOKだろう。
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