国際行商の第2回商隊② 帰還、定点観測、情報拡散、エピソード記憶
国際行商の第2回商隊が王都に帰還した。
今回も脱落者はなく、また1人増えている。
第1回ではストング王国とケンタック王国の者がそれぞれ1人増えていたが、今度はトロイト王国の者だそうだ。
第1回でトロイト王国内を案内してくれた2人の内1人が、今度は国をまたいでついてきてくれたらしい。
第1回と違って、今回は荷物も満載だ。
アクチュア王国向けに売れるものを3国回って買い集めてきたようだ。
戻ってきた者達には休んでもらい、また翌日に宴会兼報告会をやる予定だ。
人数が増えているが、前と同じ店でも何とか収まるだろう。
第1回と同様、軍事系ギフト保有者の3人には残ってもらって、先に報告会を行う。
今回も商隊の責任者だったダミエンを労ったが、第1回よりは楽だったそうだ。
人数は増えているが、第1回と違って旅程が決まっていて、やることも明確になっていた。
第1回では、自由に動いていいという方針の中で、商隊の責任者 兼 護衛役 兼 財布役を担ってもらっていたが、今回は財布役については商人たちに任せることができたからな。
それでもまあ、個性の強い連中をまとめるのは大変だったろう。
また身体術の訓練にも付き合ってやるさ。
今回は斥候ギフト持ちのブライムと、諜報ギフト持ちのリュクに任務を与えていた。
ブライムには滞在先での情報網構築を依頼していた。
現地の情報屋の開拓と、定点確認ができる人物、商隊でその滞在先に行くたびに変化を確認できる者の確保について頼んでいた。
後者は宿泊先の主人でもいい。
店や屋台の人間でもいい。
こちらと共通する関心事を持つ人間から、商隊が訪問するたびに話が聞ければ十分だ。
前に確認したことからの変化について、または変化がなかったということについて、定点観測できるようになる。
ブライムから提出してもらったそのリストをざっと見てみたが、かなりのボリュームだった。
後でしっかり確認して分類しよう。
リュクには、俺の情報を拡散するための下準備をお願いしていた。
第2回商隊が出発する前に、その準備は徹底的に進めていた。
拡散したい情報と、それに合わせた音楽の準備だ。
ストーリーとして聞いた者の頭に定着しやすくなるように工夫した。
国外でも有名なエルン・ソーディスの物語から始めて、俺の物語へと繋げる流れを意識した。
エルン隊の物語から、エルン村の物語に繋げ、そのエルン村から第2のエルンとしてアルトが出てきた、という流れを、聞いた者の頭に定着させる。
一連の物語である、ということが重要だ。
人間の記憶は、短期記憶と長期記憶に分類できる。
短期記憶は数十秒程度の間、一時的に記憶するもので、長期記憶は半永久的に記憶するものだ。
長期記憶には手続き記憶、意味記憶、エピソード記憶などがある。
手続き記憶は身体の動かし方や反復で身に付けた動きで、いわゆる体で覚える記憶だ。
意味記憶は、単純な物事の記憶、暗記による記憶で、14歳くらいでピークを迎え、それ以後はこの記憶の力は衰えていく。
エピソード記憶は、文字通りエピソード、物語で定着する記憶で、老いても成長し続けると考えられている。
ここで重要なのは、エピソード記憶で頭に定着させることだ。
1836547290
この数字を記憶しろ、と言われたら、できるだろうか。
できても、5分後に聞かれて答えられるだろうか。
答えられても1時間後なら?1日後なら答えられるだろうか。
俺は、有仁の時とアルトとして生きてきた期間を合わせて、この数字のことを聞いてから20年以上経っているが、この数字を答えることができる。
今から20年後でも答えられるだろう。
なぜなら、
「奇数で繰り上がっていく数字と、偶数で繰り下がっていく数字を交互に並べる」
というエピソードで記憶しているからだ。
エピソード記憶に刻みつけたなら、長期間頭に残すことができるということだ。
比較的よく知られているエルン隊の物語をもう一度鮮やかに記憶させ、その主人公であるエルン・ソーディスの次の舞台であるエルン村の物語に繋げ、そのエルン村から出てきた『剣士エルン・ソーディスの後継である大力のアルト』の物語に繋げる。
そんなことを自分でやっていて恥ずかしくないのかと言われれば、恥ずかしいが、今後の自分たちのためにやっていることだ。
我慢するしかない。
エルン村長のことを国外にまで広めて怒られるかもしれないが、意義を伝えて我慢してもらおう。
ちょっと、いや、かなり申し訳ないけれど。
リュクによるエルン隊の歌、エルン村の歌、アルトの歌の三部作は、商隊の滞在先のどこでも結構ウケていたそうだ。
トロイト王国やストング王国からすると敵国の英雄かもしれないが、歌と音楽がよければウケるようだな。
第2回商隊でリュクに担ってもらった仕事は、今後大きな影響力を持つはずだ。
それは共鳴することで影響力を発揮する。
その『時』は、もう少し先の話になるだろう。
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