アルトの裁判② 逆転、露呈、『時』が来て『時』を待つ
「異議あり!」
裁判所に大声で響き渡った。
もちろん、発言したのは俺だ。
「判決が下ったのに異議とは何事だ!」「平民上がりのクズが生意気だ!」などと更に大きくなった罵声が傍聴席から上がる。
裁判官が木槌を台に何度も叩きつけ、傍聴席の声が静まっていった。
「被告人アルトよ、異議とは何か」
「私は、南東辺境開拓地域で剣士ギフトを有するエルン・ソーディスの下で育ちました。
剣士ギフトのその力、私はよく分かっているつもりです。
その上で、主張します。
ジュリアン・ローゼルスタッドは剣士ギフトの保有者ではあり得ない。
『御前武試』の結果でも分かる通り、ジュリアン・ローゼルスタッドは剣士ギフトとは思えないほどに弱い。
何より、身体術をほとんど使えていない。
エルン・ソーディスからは、6歳の時に剣士ギフトに覚醒した後、すぐに身体術もそれなりのレベルで使えていたと聞いています。
また、エルン・ソーディスは剣士ギフトに覚醒してすぐに魔獣と戦い、勝利していたと聞いています。
ジュリアン・ローゼルスタッドは『御前武試』で見せた実力で戦っても魔獣に勝利できるとは思えない。
6歳のエルン・ソーディスにできたことを、13歳のジュリアン・ローゼルスタッドができない、これが剣士ギフトの保有者とは考えられない理由です」
俺は一気に話しきった。
裁判官は思考に入っている。
ジュリアン・ローゼルスタッドの傍にいる者や、傍聴席のローゼルスタッド侯爵家の当主などは「馬鹿げたことを抜かすな!」などと罵声を上げている。
「私は、ジュリアン・ローゼルスタッドが剣士ギフトを詐称しており、実際は剣術ギフトなのではないかと疑っています。
ほとんど鍛えていない、剣術の講義でもほとんど修行した形跡が見られないのに、それなりに剣術らしきものが使えていました。
それでいて身体術はほとんど使えていない。
これは剣術ギフトの特徴です」
ジュリアン・ローゼルスタッドのそばにいる者や傍聴席のローゼルスタッド侯爵家の当主とその周りの罵声のボリュームが更に上がった。
「グローフィル子爵!」
俺は傍聴席に声をかけて、傍聴席の方に歩み寄った。
グローフィル子爵は既に傍聴席の最前列まで下りてきている。
そこで、『頼んでいたもの』をグローフィル子爵から受け取った。
俺はジュリアン・ローゼルスタッド側の席へと歩いていく。
近くで備えていた兵士たちが、俺が暴れたら取り押さえようと構えだした。
俺はグローフィル子爵から預かった袋から、中身を取り出した。
鑑定の宝玉だ。
「今一度、鑑定の宝玉で確認しましょう。
裁判官もご覧ください」
ジュリアン・ローゼルスタッドのそばにいる者たちが俺をジュリアン・ローゼルスタッドに近づけさせまいとしてくるが、力付くで押し通った。
傍聴席からローゼルスタッド侯爵家の当主が限界まで声を振り絞って「止めろ!」と何度も叫んでいる。
ジュリアン・ローゼルスタッドに鑑定の宝玉を押し付けた。
『剣術』
文字が大きく浮かび上がった。
裁判官の席からでも見えただろうが、裁判官は席から降りて、近くによって鑑定の宝玉を確認した。
一つ頷き、裁判官は席に戻った。
俺は鑑定の宝玉を袋に収めた。
今すぐ返すのは難しいから、裁判終了後にグローフィル子爵へ返しに行こう。
予め、こうなった時のことをグローフィル子爵に頼んでいたが、完璧に応えてくれたな。
裁判官が木槌を台に叩きつける。
傍聴席のローゼルスタッド侯爵家の当主は罵声を止めない。
俺は、ローゼルスタッド侯爵家の当主の方に向き直り、睨みつけた。
それから、精神魔術と生命魔術を行使する。
ギフトなしでも、これくらいはできるようになってるんだよ。
ローゼルスタッッド家の当主は「ひっ」と声を上げて失神し、そして失禁した。
「親子揃って、失禁貴族か。
軍事閥の貴族家が、それでいいのか?」
俺の声が法廷内に響き渡った。
少し風魔術で声を拡げている。
同じ軍事閥の貴族家でも、上位の相手が落ち目なら引きずり下ろしたくなるだろう。
分かりやすくその落ち目を作って見せてやったつもりだ。
現に、失禁したローゼルスタッド侯爵家の当主から人が離れている。
まあ、臭かったのもあるだろうが、それでも世話をしようという気力もなくなってきたのだろう。
裁判官が木槌を台に叩きつけ、ようやく傍聴席も静かになった。
「被害者ジュリアン・ローゼルスタッドのギフト詐称がこの場で証明された。
ジュリアン・ローゼルスタッドは剣術ギフトを剣士ギフトと詐称しており、かつその実力は著しく低かったということも客観的な事実から認めざるを得ない。
被告人アルトには、最も下級の兵士として、5年の期間、労務を果たすことを先ほど量刑として判決を下したが、取り消す。
被告人アルトには、後方支援の部署にて半年の期間労務を果たすこと、混成部隊に属して戦場に1度出ること、このどちらかを選び、それが課されるものとする」
うん。思いっきり減刑されたな。
見事にうまくいったものだ。
「私は、混成部隊に属して戦場に1度出ることを選びます」
裁判長は俺がそちらを選ぶとは思っていなかったのか、少し驚きながら、最後の判決を下し、裁判が終了した。
ジュリアン・ローゼルスタッドの保有するギフトが剣術ギフトであることは、初めて見た時から俺の真のギフトで分かっていた。
この手札を、最も効果的な場所で切る、正にその『時』がこの裁判だった。
ローゼルスタッド侯爵家の悪事の証拠をこの裁判で公開することも考えた。
だが、俺の罪を判断する場所で、俺の立場がただの学生では、証拠が真正なものと認められたとしても、それほどの効果は期待できないだろう。
いつか、その『時』はくる。
この作品を読んでいただきありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いします。




