エルン村長夫妻への相談②
「3つ目の話で、ものごとの考え方が思い浮かぶ、と言っていたね。考える力とはまた別のものなのかな?」
アデリナさんほど魔術に反応しなかったエルン村長が問いかけてきた。
うーむ。
PEST分析とかの話をしてもいいけど、もっと分かりやすくて実践的な話だと・・・TOC(制約条件理論)の話がいいかな。
「そうですね・・・例えば、いろんな強さの金属の輪があるとして、それを繋げて鎖にします。数字にして5,7,1,3,9の強さの5つの輪を繋げたとして、この鎖全体の強さはどれくらいになるでしょうか?」
「ふむ。強さの平均として、『(5+7+1+3+9)÷5』で5かな?」
「それが、この鎖を両端から引っ張ると、1の力を加えた時点で真ん中の1の強さの輪が壊れるので、この鎖全体の強さも1になります。最も能力が低い部分が制約条件となり、制約条件が全体の能力を決定する、という考え方があるんです。またこの考え方だと、制約条件を強化することが全体を強化することに繋がります。真ん中の1の輪を強化して3の輪にすることで、鎖全体の強さが3になります。真ん中の輪を4に強化すると、今度は左から4番目の輪が制約条件になるので、全体の強さは3のままです」
一息ついて、更に実例を挙げる。
「例えば、10人の部隊があったとして、その部隊の動きの速さを決めるのは10人の中で最も遅い者になります。速さを重視するのであれば、最も遅い者の速さを鍛える、最も遅い者の荷物を軽くする、馬などに乗せることで部隊全体の速度が上がります。もちろん、実際には持久力などいろんな要素が絡んできますが、制約条件が全体の能力を決定することには変わりがありません」
元々TOCは工場のライン管理が発祥だから、工場のラインの工程の歩留まりとか在庫の話が一番分かりやすいし効果もあるんだけど、分業があまりされてなさそうなこの世界だとその説明は逆に分かりづらそうなので、部隊で説明してみた。
二人とも俺の話を咀嚼しながら「うーん」と唸っていた。
「確かにその通りだね。当たり前のことを整理しただけとも思えるけれど、その考え方は様々なことに応用ができそうだ。まあとても5歳児の考えることじゃないし、ギフトの恩恵はすごいものだなと改めて考えさせられるよ」
しばらくしてエルン村長がしみじみと感想を述べた。
「それで、このギフトの2つ目と3つ目の能力については、特に公言しないでおこうと考えています。エルン村では問題ないと思いますが、王都ではあまり目をつけられたくないので・・・」
「なるほど。確かに魔術を広く行使できるということ、思考力にまで恩恵があることは、王都の連中に警戒されそうだね。そして前例のないギフトであれば、1つ目の能力だけでも納得されるだろう。それにしても、もうそこまで先のことを考えているのか」
エルン村長が感心したように言った。
うーむ。
仮定に仮定を重ねたもっと先のプラン、というか複数のシナリオプランニングまであるのはあるんだけどな。
「第二エルン隊シナリオ」「領地貴族駆逐シナリオ」「王国消滅シナリオ」とか。
妄想に近いし、考えただけで全く詰められていないし、分かっていないことを埋めて更新してからでないと、あまり意味も実現性もないものでもあるし、今の段階で伝えるべきではないだろうな。
まずは当面の動きの話だな。話を続けよう。
「1つ目の身体強化、身体術に関してですが、最初に話した通り制御が難しく、少しずつ強さ、硬さ、靭性などのバランスを取りながら習熟してきました。どこまで力を上げられるかを重視してきたので加減などはまだ難しい状況です。今後は訓練にも参加させてほしいですが、対人の訓練などはなかなか難しいかもしれません」
「うん。2つ目と3つ目が衝撃的で、1つ目についての話ができていなかったね。アルトの対人訓練はまず私が担当しよう。習熟度合によって様子を見ていく形になるかな。ところで、制御が難しかったということは、制御に失敗したりもしたということかな?それは自分で治せたのかい?」
「はい。身体術による回復で治せました。回復や自分以外の物の強化などは、身体強化よりも僕にとっては扱いやすいかもしれません」
「そうか」
エルン村長が目を細めて一言告げると無言になった。
あれ?何か気に障るような内容があったかな?
「回復が必要な怪我をしたのね?」
アデリナさんが少し低い声で話に入ってきた。
「え?はい。まあそれほどは・・・」
ちょっと焦って弁解しようとしたが、
「アルトの服を洗濯した時、右肩の袖のところがおかしなことになっていてね?一度ちぎれて繊維を無理やり繋げたような跡があったのよ。どういうことかしら?」
アデリナさんが食い気味に続けてきた。
あれ?うまく直せたと思っていたけどバレバレだったのか。
ヤバい。
もう誤魔化せなさそうだ。
「身体強化して腕を振った時に、固さと靭性の強化が足りていなかったのか、腕が飛んでいってしまいまして。その時に・・・」
「なんて無茶をするの!きっとその一度だけじゃなくて、他にもいろいろ無茶をしたんでしょ!」
アデリナさんにものすごく怒られた。
エルン村長も咎める表情だ。
でも、ここは譲れないところだ。
止められる前に・・・
「はい、無茶をしました。でも、無茶でもしないと時間がないんです。僕が12歳で王都に行かなければならないなら、もう7年もない。僕自身の成長も、エルン村に何を残せるかも、できる限りのことをしないと悔いを残してしまいます」
「・・・・・・アルトがこの村のことを含めて考えて頑張ってくれているのはよく分かったよ。でもね。まだ5歳のアルトが身を削るようにしているのを見ているのが辛いのも分かってほしい。これからは僕らもアルトのやりたいことに協力するから、一人だけで無理はしないでほしいんだ」
少しの沈黙の後でエルン村長が切り出した。
アデリナさんはまだ不満のようだ。
俺は同意し難く、沈黙を貫いた。
「はー。アルトも頑固だね。身体術による回復ができるのなら、即死しなければ復帰はできる。今後は私たちが見ている前で動いてもらうから、それなりにフォローはできる。そういったところで納得するしかないかな」
エルン村長がため息を付きながら妥協してくれた。
俺は「すみません」と謝った。
「仕方ない・・・のよね」
アデリナさんも落ち着いてくれた。
正直かなりほっとした。
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