馬車の中での会話ー本編「余波」のエリアスとシャローヌの会話ー
本編「余波」に書いてある、馬車の中での会話
シャローヌは馬車の振動で目を覚まし、バッと起き上がった。
「クラリスちゃん!」
横を見ると、クラリスは静かに寝息を立てている。
「よかった……夢じゃなかった。助かったのね」
シャローヌは胸をなで下ろした。
「もう気が付いたの?」
エリアスが声をかけた。
「はい。私、どうしてここに?」
「心労で気絶したのよ。無理もないわ。グランティル帝国から、よくあんな短時間で……」
「皇帝陛下の移転の魔法陣のおかげです。あれがなかったら、とてもじゃないけど間に合いませんでした」
「なるほどね……」
「あ、皇帝陛下にお知らせしなければ!今頃、心労でお倒れになっているかも。どうしましょう!」
シャローヌは焦った。
「もう報告済みよ。大丈夫」
エリアスは微笑んだ。
「えっと、クラリスちゃんと病室にいた方ですよね。私、一瞬しか見えてなくて」
「今はエリスよ。昔は……まあ、違う名前で呼ばれていたけどね」
「なるほど……そういう事だったのですね」
シャローヌはうなずいた。
「全然驚かないのね、あなた」
「そういう方、たまにいますよ。自分の性自認と体が違っている方。何人かお目にかかった事があります。エリス様もそうですね」
シャローヌは平然と言った。
「私はずっと目が悪かったので、人を見る時は姿形ではなく、先にオーラや魔力をみるクセがあるのです。
エリス様は女性です」
その言葉にエリアスは安心した。
「そうなのね。じゃあ、女性同士の会話をしていい?」
「もちろんです」
シャローヌはうなずいた。
「うらやましいわ、あなた。長身だけど、すごく女性らしい体つきだわ。私もだけど、亡くなったロザーリアも似たような体形でね……」
エリアスは遠い目をした。
「騎士は仕方がないですね。鍛えますから。私も目が悪くならなければ、騎士になりたかったです」
シャローヌは少し残念そうに言った。
「下手な騎士よりすごいわよ、あなた。……それより、髪がボサボサね。今、まとめてあげる」
エリアスは櫛を取り出し、シャローヌの髪を梳いた。
「あら、いやだ。本当にアルフレッドはいつも『詰め』が甘いのだから」
そう言いながら、エリアスはシャローヌの耳にかかったままだった眼鏡のツルを、魔力を流して外した。
そして手際よく髪を三つ編みにし、きれいに結い上げる。
「あなた、きれいね。本当にうらやましいわ。皇太子妃という事はレオンハルト様の奥様でしょう?あの方も幸せ者ね」
「ありがとうございます。私の方こそ、レオンハルト様と出会えてとても幸せです。……そういえば、レオンハルト様も重症と聞きましたが、どこに運ばれたかわかりますか?」
「こことは城の反対側の屋敷と聞いているわ。ちょっと待ってね」
エリアスは拳を口元に当て、小さく何かを唱えた。次の瞬間、光が外へと飛んでいく。
「通信魔法よ。騎士団長のところへ飛ばしたわ」
「その魔法、他人同士でも使えるのですね。親子で使っているのを見た事があります」
「そうね……使える相手と使えない相手がいるの。騎士団長とは、たまたま使えるのよ」
やがて、光が馬車の中へと戻ってきた。
「公爵邸まで、迎えが来るそうよ。そう手配したって」
「まあ、素早いです」
シャローヌは驚いた。
「ふふ、今の騎士団長も優秀ですからね。昔はクラウスが務めていた時期もあったのよ」
「あの頃のフェルネスは、まだ十四歳ぐらいだったわ。かわいかったわ……」
「私の方が一回りも年上なのに、いつの間にか『ため口』になっちゃって……かわいくなくなってしまったわ」
エリアスが少し拗ねたように言う。
「それだけ親しく感じていたという事だと思います。フェルネス様、照れ屋なところがありますから」
シャローヌは笑った。
「そうならいいんだけど」
その時、クラリスに付き添っていた侍女たちの声が弾んだ。
「カイレス様、王太子になられたのね」
「素敵!強くてお優しくて、精悍でいらして、長身。憧れるわ」
「そうそう!」
「カイレス様って、私を抱き起こしてくれた方ですよね?」
「そう。本来は私の息子……でも国王陛下の養子になられたの」
エリアスは少し寂しそうに笑った。
「素敵な方ですし、魔力もかなりお持ちですね。王太子になられたという事は、前の方は……?」
その瞬間、年嵩の侍女が口を開いた。
「あんな方が王太子だった事自体、おかしかったのです。
ターシャ様をいじめていたのですよ。『チビ』だの『不義の子』だの……挙句、戦死されたクラウス様を『間男』などと。今回はいい気味でございます」
侍女は憤りを隠さなかった。
「もう昔の話よ。よしましょう」
エリアスが優しくたしなめた。
シャローヌは、皇后との初対面の時に言われた言葉を思い出す。
――「不義の子」だけは言うな。
そういう事だったのか、と静かに納得した。
「皇太子妃殿下、少しよろしい?」
エリアスが小声で言った。
「シャローヌで結構です、エリス様」
「では、シャローヌ様。実は……カイレスとクラリス様が一緒になれたらと思っているの。もちろんご本人たちの気持ち次第だけど……カイレスは好意を持っているようなのよ」
「まあ……」
シャローヌは手を口元に当てた。
「とてもお似合いだと思いますわ」
力強くうなずく。
「何かあれば、ご協力いただける?」
「もちろんです。あんな好青年、逃したらクラリスちゃんの一生の損です。私もお力になります」
「ありがとう。心強いわ」
「こちらこそ、エリス様とお話できてよかったです」
「まもなく公爵邸に着きます」
外から従者の声がかかった。
二人は顔を見合わせ、軽く抱き合い、しっかりと手を握り合った。
「またお会いしましょう。できれば、二人の結婚式で」
「ドレスを送るわ。ロザーリアのものが残っているはずよ。きっとあなたに似合うわ」
「楽しみにしています」
馬車が停まると、シャローヌは真っ先に飛び降りていった。
「ふふ……元気なお方ね」
エリアスは穏やかに微笑んだ。
シャローヌのメガネのツルが付いたままになってしまい
「どこで取ろうか?」
というのと
「グランディル帝国にクラリス蘇生の連絡の場面、本編に入れるの忘れた!!どうしよう!」
の両方で悩んでいたら「そうよ、エリアスがいっしょに馬車に乗った事にしてた♪」と思い出し、この話ができました。
ここでも「詰めが甘い」と言われちゃうアルフレッド・・・何か気の毒です・・・(苦笑)




