フェルネスの初陣(前編)ー物語が始まる前ー※シリアス※
※シリアス※
※本編では語られなかった過去の出来事を扱っています※
※登場人物の死に関する描写があります。苦手な方はご注意ください※
アストリア王国軍の集会室。
そこでは招集がかかり、グランディル帝国への支援に向かう人員が集められていた。
「クラウス兄上が、グランディル帝国へ単身で向かわれたのですか?」
フェルネスは驚いていた。
「そうだ。『時間がない』と、真っ先に向かわれた。あの方のことだ、しばらくは持ちこたえるだろうが、我々もすぐに向かう。飛行魔獣に乗れる者が少ない。そなたは未成年だが、共に来てもらえるか?」
騎士団副隊長が言う。
「もちろんでございます。兄は連日の魔獣討伐で、休養も取れておりません。単身など無謀です」
「時間が迫っていたのだ。我々も急がねばならぬ。では皆の者、グランディル帝国へ向かう。国王陛下の妹君とそのご子息を救出するのだ。飛行魔獣部隊、すぐに出発!」
三十騎ほどの大型飛行魔獣が、次々と飛び立つ。
その後を飛竜部隊が続いた。
一部の飛行魔獣には、軍医が数名同乗していた。
フェルネスは焦っていた。
「もっと速度を上げてもよろしいでしょうか?」
「クラウス殿が気になるのであろう。行きなさい。我々もすぐに追いつく。城を目指せ。クラウス殿も、そこを目指されたはずだ」
「承知しました」
フェルネスは飛行魔獣に魔力を込め、速度を上げて先頭を突き進んだ。
国境を越え、しばらくすると、炎に包まれた村が見えた。
降下し、望遠の魔力を使うと、クラウスが単身で剣を振るっている姿が見える。
フェルネスは飛行魔獣から飛び降りた。
そして、クラウスの敵を背後から斬り捨てる。
「兄上!」
「フェルネスか……なぜ来た」
クラウスの声はかすれていた。
全身には無数の切り傷と刺し傷があり、出血も激しい。
「ふう……もう追っ手はいないようだな……フェルネス、すまない。中の様子を見てきてくれ。国王陛下の妹君と、そのご子息がいる。妹君はお産の最中だ」
クラウスはその場に座り込んだ
「承知しました。兄上はここでお休みください。すぐに確認してまいります」
フェルネスは指し示された建物の中へ飛び込んだ。
小さな建物だった。扉は一つ。
その前で、十歳ほどの少年が、粗末な布に包まれた赤子を抱きしめ、涙を流している。
赤子は――息をしていなかった。
扉の向こうでは、女性たちの声が響く。
「しっかり、気をしっかり持ってください。赤ちゃんは……生まれました」
「子供は……?」
か細い声がして、そのまま途切れた。
フェルネスは遠慮がちに扉を叩く。
やがて、この村の医師と思しき男が顔を出し、外へ出てきた。
「お子は女の子でしたが、死産です。奥様は長旅の疲労と出産の負担で、これ以上の処置は難しい。あとは……ご本人の気力次第です」
それだけ告げると、医師は部屋の中へ戻っていった。
フェルネスは、廊下に座り込む少年に目を向けつつ、クラウスのもとへ戻る。
「……残念ながら、死産であられたそうです」
ためらいがちに告げる。
「妹殿下は?」
「気力次第とのことです。医師も手は尽くしているようです」
その時、クラウスはふらりと立ち上がり、扉へ向かった。
フェルネスも後を追う。
クラウスは廊下で泣いている少年の頭を、そっと撫でた。
「悲しいのは分かる。だが、そなたは母上を支えねばならぬ。泣くのは今だけだ」
そして扉の前に立ち、声を張り上げる。
「エリーナ様! 聞こえますか! ご安心ください。生まれたのは、かわいらしい女の子です! すでに私の配下が隣国へ逃がしました。信頼できる者です。どうか気をしっかりお持ちください。生きてさえいれば、必ず再会できます!」
しばらくして、医師が扉を開けて出てきた。
「……ありがとう。奥様は今の言葉を聞かれた。安心されたようだ」
そう言って、再び中へ戻る。
フェルネスは、崩れ落ちそうになる体をこらえながら、少年に声をかけた。
「……外へ参ろう」
少年の肩に手を乗せ、外へと向かう
その光景を見た瞬間、フェルネスは駆け寄り、クラウスの腕を支えた。
外に出ると、クラウスはかすれた声で言う。
「……そこの壁際に、座らせてくれ」
フェルネスは言われたとおりにする。
「フェルネス……最期に会えてよかった……私はもう……力が残っておらぬ……その子と赤子を、城にいる御父上のもとへ届けてくれ……頼む」
「最期などと、言わないでください。まもなく軍医が到着します!」
「ロザーリアに……これを……」
クラウスは左手の中指から指輪を外し、フェルネスに差し出す。
兜から見えるその目は、すでに焦点を失いかけていた。
「かえり……たか……った……」
小さくそう呟き、静かに目を閉じる。
「フェルネス殿!!」
いつの間にか、飛行魔獣部隊が到着していた。
軍医が駆け寄り、クラウスの首筋に手を当てる。
そして――静かに首を横に振った。
フェルネスは、目の前で起きていることが理解できなかった。
だが、傍らの少年の存在に気づき、はっとする。
「副団長……後はお願いします。私はこの子を城へ連れて行くよう、兄に命じられました。すぐに向かいます」
「……分かった。後は任せてくれ」
「クラウス団長……いやだ……嘘だ……!」
「目を、目を開けてください」
騎士の一部が、その場で泣き崩れていた。
エルドリアから派遣されてきた者たちだろう。
「……行こう」
フェルネスは、受け取った指輪をそっと懐にしまった。
少年を抱き上げ、飛行魔獣の上に座らせる。
落下防止の固定魔法をかける。
「これで落ちることはない。城まで案内してくれ」
そして自らも飛び乗り、城へと飛び立った。
少年は妹の亡骸を見つめながら、固く唇を結んだ。
――あの方の言葉を、嘘にはしない。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本編と外伝では語られなかった、クラウスの最期の場面を描きました。
また、本編9話「帝国なんか行かない」でレオンハルトが語っていた出来事でもあります。
後半へ続きます




