表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇女の帰還―約束の耳飾り― 番外編集  作者: 鶴見 日向子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

フェルネスの初陣(前編)ー物語が始まる前ー※シリアス※

※シリアス※

※本編では語られなかった過去の出来事を扱っています※

※登場人物の死に関する描写があります。苦手な方はご注意ください※

アストリア王国軍の集会室。


そこでは招集がかかり、グランディル帝国への支援に向かう人員が集められていた。


「クラウス兄上が、グランディル帝国へ単身で向かわれたのですか?」


フェルネスは驚いていた。


「そうだ。『時間がない』と、真っ先に向かわれた。あの方のことだ、しばらくは持ちこたえるだろうが、我々もすぐに向かう。飛行魔獣に乗れる者が少ない。そなたは未成年だが、共に来てもらえるか?」


騎士団副隊長が言う。


「もちろんでございます。兄は連日の魔獣討伐で、休養も取れておりません。単身など無謀です」


「時間が迫っていたのだ。我々も急がねばならぬ。では皆の者、グランディル帝国へ向かう。国王陛下の妹君とそのご子息を救出するのだ。飛行魔獣部隊、すぐに出発!」


三十騎ほどの大型飛行魔獣が、次々と飛び立つ。


その後を飛竜部隊が続いた。


一部の飛行魔獣には、軍医が数名同乗していた。


フェルネスは焦っていた。


「もっと速度を上げてもよろしいでしょうか?」


「クラウス殿が気になるのであろう。行きなさい。我々もすぐに追いつく。城を目指せ。クラウス殿も、そこを目指されたはずだ」


「承知しました」


フェルネスは飛行魔獣に魔力を込め、速度を上げて先頭を突き進んだ。


国境を越え、しばらくすると、炎に包まれた村が見えた。


降下し、望遠の魔力を使うと、クラウスが単身で剣を振るっている姿が見える。


フェルネスは飛行魔獣から飛び降りた。


そして、クラウスの敵を背後から斬り捨てる。


「兄上!」


「フェルネスか……なぜ来た」


クラウスの声はかすれていた。


全身には無数の切り傷と刺し傷があり、出血も激しい。


「ふう……もう追っ手はいないようだな……フェルネス、すまない。中の様子を見てきてくれ。国王陛下の妹君と、そのご子息がいる。妹君はお産の最中だ」


クラウスはその場に座り込んだ


「承知しました。兄上はここでお休みください。すぐに確認してまいります」


フェルネスは指し示された建物の中へ飛び込んだ。


小さな建物だった。扉は一つ。


その前で、十歳ほどの少年が、粗末な布に包まれた赤子を抱きしめ、涙を流している。


赤子は――息をしていなかった。


扉の向こうでは、女性たちの声が響く。


「しっかり、気をしっかり持ってください。赤ちゃんは……生まれました」


「子供は……?」


か細い声がして、そのまま途切れた。


フェルネスは遠慮がちに扉を叩く。


やがて、この村の医師と思しき男が顔を出し、外へ出てきた。


「お子は女の子でしたが、死産です。奥様は長旅の疲労と出産の負担で、これ以上の処置は難しい。あとは……ご本人の気力次第です」


それだけ告げると、医師は部屋の中へ戻っていった。


フェルネスは、廊下に座り込む少年に目を向けつつ、クラウスのもとへ戻る。


「……残念ながら、死産であられたそうです」


ためらいがちに告げる。


「妹殿下は?」


「気力次第とのことです。医師も手は尽くしているようです」


その時、クラウスはふらりと立ち上がり、扉へ向かった。


フェルネスも後を追う。


クラウスは廊下で泣いている少年の頭を、そっと撫でた。


「悲しいのは分かる。だが、そなたは母上を支えねばならぬ。泣くのは今だけだ」


そして扉の前に立ち、声を張り上げる。


「エリーナ様! 聞こえますか! ご安心ください。生まれたのは、かわいらしい女の子です! すでに私の配下が隣国へ逃がしました。信頼できる者です。どうか気をしっかりお持ちください。生きてさえいれば、必ず再会できます!」


しばらくして、医師が扉を開けて出てきた。


「……ありがとう。奥様は今の言葉を聞かれた。安心されたようだ」


そう言って、再び中へ戻る。


フェルネスは、崩れ落ちそうになる体をこらえながら、少年に声をかけた。


「……外へ参ろう」


少年の肩に手を乗せ、外へと向かう


その光景を見た瞬間、フェルネスは駆け寄り、クラウスの腕を支えた。


外に出ると、クラウスはかすれた声で言う。


「……そこの壁際に、座らせてくれ」


フェルネスは言われたとおりにする。


「フェルネス……最期に会えてよかった……私はもう……力が残っておらぬ……その子と赤子を、城にいる御父上のもとへ届けてくれ……頼む」


「最期などと、言わないでください。まもなく軍医が到着します!」


「ロザーリアに……これを……」


クラウスは左手の中指から指輪を外し、フェルネスに差し出す。


兜から見えるその目は、すでに焦点を失いかけていた。


「かえり……たか……った……」


小さくそう呟き、静かに目を閉じる。


「フェルネス殿!!」


いつの間にか、飛行魔獣部隊が到着していた。


軍医が駆け寄り、クラウスの首筋に手を当てる。


そして――静かに首を横に振った。


フェルネスは、目の前で起きていることが理解できなかった。


だが、傍らの少年の存在に気づき、はっとする。


「副団長……後はお願いします。私はこの子を城へ連れて行くよう、兄に命じられました。すぐに向かいます」


「……分かった。後は任せてくれ」


「クラウス団長……いやだ……嘘だ……!」


「目を、目を開けてください」


騎士の一部が、その場で泣き崩れていた。


エルドリアから派遣されてきた者たちだろう。


「……行こう」


フェルネスは、受け取った指輪をそっと懐にしまった。


少年を抱き上げ、飛行魔獣の上に座らせる。


落下防止の固定魔法をかける。


「これで落ちることはない。城まで案内してくれ」


そして自らも飛び乗り、城へと飛び立った。


少年は妹の亡骸を見つめながら、固く唇を結んだ。


――あの方の言葉を、嘘にはしない。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

本編と外伝では語られなかった、クラウスの最期の場面を描きました。

また、本編9話「帝国なんか行かない」でレオンハルトが語っていた出来事でもあります。

後半へ続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ