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皇女の帰還―約束の耳飾り― 番外編集  作者: 鶴見 日向子


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父と息子 (本編 悲報 ―届かなかった再会―の裏話)

タイトル通りです

※途中、自〇未遂の場面があります。ご注意ください※

カイレスがアストリアへ帰国した。


久しぶりに妹と叔父、そして父エリアスや祖父母と再会できることを楽しみにしていたのだが――


ターシャとフェルネスは帝国へ旅立った後だという。


「なんで……」


カイレスはがっくりとうなだれた。


「それもこれも、あのダストスのせいか!」


それ以降、カイレスはあまり王宮には赴かず、主に騎士達の訓練所と公爵家を行き来する生活になった。


そして、父であるエリアスの様子に心を痛めていた。


カイレスの帰国をエリアスは喜んではくれた。

だが、その姿は以前よりもやつれていた。


そして、


「私はそなたの実の父親ではない。そなたは国王陛下に育てられるべきだ」


と言うようになった。


その言葉には力がなかった。


本心ではない――カイレスにはそう思えた。


「過去は変えることはできません。ですが、未来は変えられます。私はそのために帰ってきたのです。

私は父上の息子です」


その言葉に、エリアスは口元だけに笑みを浮かべ、カイレスの頭をなでるだけだった。


カイレスは祖母である公爵夫人にも相談した。


「ターシャちゃんとフェルネス様が旅立ってしまってから、ずっとあんな調子なのよ。

城の執務にも行かなくなって、部屋に閉じこもったまま。

正直、どうしていいものなのか……」


心配になったカイレスは、休日に一日中エリアスに付き添った。


だが、エリアスはただ鏡に映る自分の姿を見つめるだけだった。


カイレスは時折、昔からエリアスに仕えている侍女達に部屋を追い出されることがあった。


だが、その侍女達も、すぐに部屋から出されていた。


「いったい何なのだ?」


問い詰めても、侍女達は口を固く閉ざすだけだった。


アルフレッドも時折訪ねてきたが、彼も首を横に振るばかりだった。


そんな日々が数年続いた。


ある日、アルフレッドが真剣な表情でカイレスに言った。


「危ないかもしれない。絶対にエリアスから目を離すな。

私は、どうしてもエリアスには生き抜いてほしい」


かつてないほど切迫したアルフレッドの様子に、カイレスはうなずいた。


「そなた一人では大変であろう。事情を知っている侍女達にも協力を求めなさい。

私もできる限り顔を出す」


その日から、侍女達と交代しながら、できる限りカイレスがエリアスに付き添うようになった。


ある晩のことだった。


カイレスは、エリアスが寝息を立てているのを確認し、用足しのため部屋を出た。


だが、数歩歩いたところで胸騒ぎを覚え、すぐに引き返した。


ドアが開かない。


カイレスは魔力でドアを破壊した。


その瞬間、天井の梁から垂れ下がる長い紐と、それに首を通そうとするエリアスの姿が目に入った。


カイレスは即座に紐に向って魔力を放った


紐が切れる。


「いったい、なぜ!!」


ドアが破壊された音と何か重い物が落ちたような音に、屋敷の者達が集まってくる。


カイレスは振り返り、


「なんでもない。私が寝ぼけただけだ。すまない」


と言って皆を帰した。


その間に、駆け付けた侍女の一人がエリアスを抱きしめていた。


「エリアス様……エリアス様がいくら頑張っても、もうどうしようもないのです。

亡きロザーリア様は理解してくださいました。

必ず、理解してくださる方がいます。私もその一人です。

ですから、どうかもう……」


侍女は涙を流していた。


カイレスには、何が起きているのか理解できなかった。


翌日、アルフレッドがやってきた。


「エリアス。もう、以前のそなたに戻ってよいのだよ。

ご両親にも、ちゃんと話そう。


カイレス、悪いが盗聴防止の膜を張ってほしい。

侍女の一部は事情を知っているが、この話は外部に漏れては困る。

そなたにも、心して聞いてほしい」


カイレスは言われた通り、部屋に盗聴防止の魔法の膜を張った。


そして、アルフレッドは静かに口を開いた。


「エリアスは、体は男性だが、心は女性なのだ」


公爵と公爵夫人が目を見張る。

もちろん、カイレスもだった。


「この数年間、エリアスは何とか心まで男性になろうとしていた。

だが、そのせいで心が壊れてしまった。


ご両親には理解しがたい話であると思う。

だが、男としてのエリアスは、もう死んだと思ってあきらめてくださらぬか」


公爵夫人が目に涙を浮かべながら言った。


「私はてっきり、息子は男色なのだと思い込んでいました。

フェルネス様に恋をしていて、いなくなられたせいで、おかしくなったのかと……」


そして、震える声で続けた。


「まさか、心が女性だとは……。

男色でなくて、ほっとしました」


エリアスが少しだけ目を丸くしたように見えた。


「男色とは、少々違います。

詳しくは話せませんが……。


エリアスの場合は、ただ女性として生きていきたいだけなのです。


それを否定され続けることは、死ぬほどつらい。


だから、今回のようなことが起きたのです。


これからは、女性として生きられるようにしてもらえませんか。

そうでなければ、また同じことが繰り返されます。


幸い、事情を知っている侍女達がいます。

彼女達は信頼できます。


後は、ご両親とカイレスだけです」


公爵は深いため息をついた。


「私には理解できない。

ただ、息子には生き続けてほしい。

好きなようにしてくれ。


すまない。心の整理ができないので、これ以上の話し合いからは抜けさせてもらう。


カイレス、膜を消してくれ」


カイレスは言われた通り、薄い光の膜を消した。


公爵は立ち上がると、エリアスの肩を軽く叩き、部屋を出ていった。


カイレスは昔の「レオン」のことを思い出していた。


――単なる思い込みだろう。


当時はそう考えていた。


だが、


「逃げ場がない」


と言っていたアルフレッドの言葉が脳裏によみがえる。


自分もまた、出自の真実から逃れることはできない。

ただ、周囲が家族として接してくれるから、そのことを忘れて今を生きていられる。


エリアスは決して、本当の自分をさらけ出そうとはしなかった。


いつでも「よき父親」だった。


他人に自分の苦しみを押し付けることもなかった。


カイレスはエリアスの前に跪いた。


「今日から、『義母上』と呼ばせてください。

私は、すべてを理解できるとは思っておりません。


ですが、私はエリアス父上が好きです。大好きです。人間として。


どんな姿になっても、それは変わることはありません」


無表情だったエリアスの顔に、安堵の表情が浮かんだ。


公爵夫人もエリアスの手を握る。


「私も、あなたが男色であれ、女性であれ、生きていてほしい。

そして、ロザーリア様とクラウス様の分まで生きなければなりません。


そのためなら、私はどんな手段でも用います」


「本当に……いいのですか?」


エリアスがかすれた声で言った。


「ええ。だから、もう二度とバカなことはしないと約束して。

その代わり、私はあなたの母親として、どんなことでも受け入れます」


その後、エリアス逝去の知らせが国内外にもたらされた。


エリアスは公爵家別邸で、「エリス」として生きることになった。


彼――いや、彼女は、ようやく本当の姿で生きることができたのだった。

ファンタジーなので、私の願望そのままを書きました。

あくまで「ファンタジー」である事をご理解いただけますと幸いです


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