カイレスの寄宿舎生活
本文とは全然関係ないカイレスの話
この話、あげるかどうか迷いましたが・・・
とても難しい問題だなと思います。
刺さる人にはささるかもしれないけど、つまらないと感じる人が多いかもと私は思います
カイレスはアルフレッドに紹介された、帝国の東にある国に来ていた。
騎士はカイレスを迎えに出た大人へ引き渡すと、すぐに帰路についた。
教師の一人が出迎え、カイレスは校長室へ案内された。
こうして、カイレスの学校生活が始まった。
そこは表向き、「各国貴族専門の寄宿舎付き学校」とされていた。
教師は言った。
「ここに来るのは、いろいろな事情を抱えた者が多い」
「そなたも何か事情を抱えていそうだが、大丈夫、そなたなら乗り越えられる。何かあったら相談してくれ」
「ありがとうございます。アルフレッドという名の医師が、ここを教えてくれたのですが」
「ほおお。アルフレッドの紹介だったのか」
教師が驚いた顔をした。
「知っていますか?」
「知っている。学生ではなく、研究者としてしばらくここにいた。おもしろい男だったよ」
教師は愉快そうに笑った。
カイレスは、すぐに学校になじんでいた。
見た目がよく、勉強も剣の腕も教師並みに優れていたカイレスは、すぐに人気者となった。
特に年下の子供達の面倒見がよく、慕われていた。
同じ年齢の子に、少し変わった少女がいた。
背はあまり高くない。だが、いつも男の格好をしている。
髪を短く切りそろえ、言葉遣いも貴族の娘にしては荒っぽかった。
その少女が、しょっちゅうカイレスに絡んでくるようになっていた。
「僕、男の子なんだ。なのに、『女の子だ』と言われてしまう。それがすごくイヤだ」
「普通に女の子だと思うのだが・・・・」
カイレスは戸惑った。
だが少女は、
「どうしたら、カイレスみたいに男らしくなれるのか教えてくれ!」
と言う。
手洗い場にまで付いて来られるのには閉口していた。
あまりのしつこさに、カイレスはつい口調を荒げてしまう。
「私には妹がいる。女性と男性の違いぐらい知っている」
「関係ない。僕は男だ」
カイレスは頭を抱えた。
「背が高くても低くても、女性は女性だ。男にはなれない。体の性別の造りは変えられる物ではないと思うぞ」
その少女はうつむき、悔しそうな顔をした。
それでも、
「でも、男なんだ。僕は」
そうつぶやいた。
どう対応していいのかわからず、カイレスは最初に気さくに声をかけてくれた教師へ相談する事にした。
「ああ、あの子か……。たまにいるのだよ、そういう子が」
「どういう事ですか?」
「実際の体の造りと、精神的な性別が違ってしまっているのだよ。それ以上は私にもわからない」
カイレスは溜息をついた。
だが、ふと叔父であるフェルネスを思い出した。
整った顔立ちに、細身で背が高い。
髪を伸ばし、騎士の格好をしていなければ、長身の女性騎士と間違えられるだろう。
フェルネスは少しでも髪が伸びると、侍従に切らせていた。
「女と間違えられるのはごめんだ」
と、いつも言っていた。
「君、名前は何て言うのだ?」
またしつこく付きまとってきたので、カイレスは聞いてみた。
「エリザベスだけど、『レオン』と呼んでくれ」
「わかった。レオン、男らしくなるには、まず剣だ。体を鍛えなければならない」
レオンの目が輝いた。
「そうなんだ! ありがとう!」
レオンはその日から、熱心に剣を振るようになった。
時々、カイレスも稽古に付き合ったが、レオンは弱すぎた。
「男になりたいのであろう? もっと鍛えろ!」
レオンは唇を噛みしめた。
それから毎日体を鍛えるようになり、カイレスに付きまとう事はなくなっていた。
だが、いくら努力しても力は弱いままだった。
その反動からか、行動はますます荒々しくなっていく。
他の女生徒に絡み、自分より弱いと思った男子生徒には暴力をふるうようになっていた。
「本当の男がする事ではない。自分より弱い者には優しくするのが、本当の男だ」
カイレスは諭したが、レオンの行動は改まらなかった。
「そなたはいったい何を目指しているのだ? 男らしさの前に、人としての在り方を考えるべきではないか?」
カイレスはレオンをきつく叱った。
「何もかも持っている、お前に何がわかる!!」
レオンは叫ぶ。
カイレスは、あきれ果てていた。
「もうそなたとは関わりたくない。好きにしろ。ただし、他の生徒に危害を加えるのであれば、私は許さない」
レオンはますます荒れ、とうとう学校をやめさせられる事になった。
カイレスは正直、ほっとしていた。
いつの間にか、カイレスが学校へ入り、二年の時が過ぎていた。
ある日、アルフレッドがふらりと訪ねてきた。
カイレスは「レオン」の話をした。
ずっと心の中でもやもやしていたからだ。
「決して許される行為ではなかったが、レオン君には『逃げ場』がなかった。そのやりきれなさが、ああいう行動を起こさせたのだろう」
「よくわかりません。なぜわざわざ、不可能な事を目指すのか、理解に苦しみます」
「それは、その立場になってみないとわからない。そなただって、ターシャから逃げていたではないか。ターシャがどれだけそなたに会いたがっているか、思い起こした事はあったか?」
カイレスは、はっとした。
「ターシャの気持ちは全く考えていませんでした。自分の事だけで精一杯でした」
「それと、そんなに違わないと思うぞ」
アルフレッドは厳しい目でカイレスを見つめた。
「まだ帰国する気にならないか? 実はターシャの事を聞いて、ここへ来たのだ」
「ターシャ? 何があったのです?」
「ロザーリアとクラウスの不義の子を、エリアスが引き取って育てているという話が城内に広まっている。ダストス王太子が話を盛って、取り巻き達に触れ回っているのだ。今は悪口だけだが……そのうち何かしでかすぞ」
アルフレッドは真剣な表情で言った。
「血はつながってなくても、妹だろう? 守ってやる気はないか?」
カイレスの顔から血の気が引いた。
「すぐに帰国します。そんな事になっていたなんて……」
「それがよい。それこそ、我が従妹殿の息子だ」
アルフレッドは目を細めた。
「血を分けていなくても、そなたはロザーリアとエリアス殿の息子。それを忘れるな。いいな」
「はい。未熟な自分から卒業いたします。血はつながってなくても、ターシャは大事な妹です」
あわてて帰国したカイレスだったが、その時にはもう、ターシャもフェルネスも帝国へ旅立った後だった。
だが、後に「レオン」と関わった経験が、エリアスの気持ちに寄り添う事につながるとは、カイレスは夢にも思っていなかった。
カイレスがエリアスの事を後に「義母」と呼びます。
エリアスへの理解の土台が欲しかったので、この話を書きました。
クラリスにも言わせていますが、まずは「人間性」だと思います。
あくまで理想ですけどね・・・




