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皇女の帰還―約束の耳飾り― 番外編集  作者: 鶴見 日向子


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12/23

ー守るための嘘ー ロザーリアの死、直後の話

番外編4話 ーエルドニアにてーにて語られている部分の詳細です

ロザーリアは、半年の闘病の末に亡くなった。


「姉上は、ようやく苦しみから解放されたのだ」


フェルネスはそう思うことで、くじけそうになる心を必死に奮い立たせていた。


「カイレスとターシャは公爵家で引き取る。そなたも一緒に来い」

エリアスが声をかけてくれた。


姉を失った今、自分に残されたのは「第二王子」という称号と邸宅だけだった。


その邸宅も、本来の持ち主である王弟は戻る気配がなく、勝手に扱えるものではない。


――公爵夫妻とエリアスに甘えよう。


――その代わり、必ず恩を返す。


そう決意していたフェルネスだったが――


ある日、ターシャが国王の側近リチャードに連れ出されるのを目にした。


「おかしい……」


フェルネスは直感的に異変を感じ、跡を追った。


リチャードは飛行魔獣にターシャを乗せ、隣国との国境近くまで飛ぶ。


フェルネスは距離を取りながら、望遠の魔力でその姿を追い続けた。


やがてリチャードは平地に降り立ち、近くの馬車小屋へ向かう。


そこから馬を一頭借り、ターシャを前に乗せて林の中へと走り去った。


木々に遮られ 望遠の魔力は途切れる。


フェルネスも平地に降り、気配を消して追跡を続けた。


およそ二時間ほど経っただろうか。


リチャードが辿り着いたのは、小さな村だった。


「こんな場所に村が……」


そこは百世帯ほどの小さな集落で、木々に囲まれている。


飛行魔獣や飛竜では降りることすら難しい場所だった。


リチャードは村の中で最も大きな家へと入っていく。


しばらくして――ひとりで出てきた。


「フェルネス様。ついて来られていることは承知しております。どうぞ、お姿を」


静かな声が、森に響いた。


「……気づいていたか」


フェルネスは姿を現す。


「ええ。わざと、ついて来ていただくように致しました」


「どういうことだ?」

「詳しい事情は申し上げられません。ただ――しばらくの間、お二人にはこの村でお過ごしいただきたいのです」

リチャードは目を伏せる。


「決して存在を悟られぬよう、ご注意ください。目立つ行動はお控えください」


「……国王陛下か?」

フェルネスの問いに、リチャードはゆっくりと頷いた。


「ターシャ様をお守りするには、隠すしかございません。どうか、これ以上は……」

リチャードはその場に跪き、深く頭を下げた。


フェルネスはしばし黙り込む。


そして、静かに口を開いた。

「わかった。ターシャは私が連れ去ったことにしてくれ」


「……!」


「そうすれば、そなたの立場も守られるだろう」


リチャードは顔を上げ、目を見開いた。


「ありがたきお言葉……」

そのまま深く頭を下げる。


「必ず、落ち着き次第お迎えに参ります」

そう言い残し、リチャードは馬に乗って去っていった。

________________________________________


フェルネスは、リチャードが入っていった家へと足を踏み入れる。


中には、中年の太った男と、小太りの女がいた。


「この村は、国を追われた者たちの集まりだ。兄ちゃん、若いのに何をやらかした?」

男が値踏みするように言う。


「私は……」

言葉に詰まるフェルネスを見て、男はにやりと笑った。


「その顔に体格、それに騎士の格好……どこかの貴族夫人に手を出して逃げてきた、ってところか?」

屈辱的な想像だったが、ここに居場所を得るには、それらしい理由が必要なのだろう。


フェルネスは否定も肯定もせず、黙っていた。


「いいさ。若いし働けそうだ。この村に置いてやる。空き家があるから、そこを使え」


「……ありがとうございます」

フェルネスは頭を下げた。


「ところで、先ほど小さな女の子が連れて来られていましたが……」


「ああ、あの子か。昔の上司から頼まれてな。しばらく預かることになった」

男は肩をすくめる。


「訳ありらしいが、うちで抱えると余計な噂が立つ。だから孤児院に預けることにした」


「それなら、私が一緒に暮らさせてください」

思わず言葉が出ていた。


「無理だな」

男は即座に首を振る。


「そんな小さい子を、あんたみたいな若い兄ちゃんに任せられるか。あんたには働いてもらう。子守をしている暇はない」


その言葉は、覆らなかった。

________________________________________


翌日から、フェルネスの生活は一変した。


早朝から夜遅くまで、村人に混じって働かされる日々。


だが彼は、すぐに頭角を現す。


計算は速く、魔力で重い荷も軽々と運ぶ。


その働きぶりは、村人たちに重宝された。


「特別だ。昼のわずかな時間だけ、あの子との面会を許す」

そう言われた時、フェルネスは初めて安堵した。


「ただし、食べ物の差し入れは許さん。他の子と不公平になる」

条件付きではあったが、それでも十分だった。


フェルネスは毎日、孤児院へ通った。


粗末な食事を見て、自分の分をこっそり分け与える。

汚れた体は魔法で清める。


「必ず迎えが来る。それまで耐えるのだ」

そう言って励まし続けた。


だが――


それが他の子どもたちに知られ、ターシャがいじめられていることに、フェルネスは気づくことができなかった。

________________________________________


その頃、エルドリア王国では――


「フェルネスに奪われただと!?」

国王が怒声を響かせていた。


「申し訳ありません」

リチャードはただ頭を下げ続ける。


「探せ!見つけ出し、確実に息の根を止めろ!フェルネスも不要だ!元々邪魔だったのだ!」

国王は唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。


その横で、王太子と王太子妃は無言のままリチャードを見下ろしていた。


だが、震えるその手には気づいていた。


「もうよろしいでしょう、父上」

王太子が静かに口を開く。


「フェルネスは目立つ。いずれ見つかります」


「ならばしらみ潰しに探せ!身ぐるみ剥がして追放しろ!」


リチャードは深く一礼し、静かに部屋を後にした。



お読みいただき、ありがとうございます

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