王太子と皇女の会話(本編46話の裏話)
本編では省略した、裏話です
カイレスは毎日、病床にあるクラリスを訪ね、言葉を交わすようになった。
互いにこれまでの出来事を語り合い、穏やかな時間を重ねていく。
やがてクラリスの体調が回復すると、二人で庭をゆっくり散歩することもあった。
――そして、帰国の日を迎える。
別れ際、エリアスがクラリスに挨拶をしていた。
その胸に飛び込むように抱きつくクラリスの姿を見て、カイレスは決意を固める。
(やはり、この人しかいない)
エリアスを理解し、受け入れてくれる存在。
それだけは、何があっても譲れなかった。
エリアスが気を利かせ、目で合図を送る。
カイレスは静かにクラリスへ歩み寄った。
少し離れた場所では、皇太子とフェルネスがその様子を見守っている。
「……ずっと、聞きたくても聞けなかったのだが」
カイレスは意を決して口を開いた。
「そなた、婚約者はいるのか?」
「いいえ、いません」
クラリスはまっすぐにカイレスを見つめて答える。
「そうか……」
カイレスは、安堵したように息をついた。
「では、結婚の予定は?」
クラリスは少し視線を落とし、静かに答えた。
「領内の者か、あるいは他国から婿を迎え、国内にとどまるよう――幼い頃から父に言われております」
「よさそうな相手はいるのか? 元兄として、気になってな」
その目は真剣そのものだった。
「いいえ、いません。ですが……兄である皇太子もそうでしたように、恐らく父が選んだ相手と結婚することになると思います」
その言葉に、クラリスの表情がわずかに曇る。
「……そうか。では、父上――皇帝陛下の許しがあればよいのだな?」
「はい。父が認めた相手であれば……」
クラリスは、じっとカイレスを見つめ返した。
「わかった。そなたはもう、いつ結婚してもおかしくない年頃だ。兄として、気になっていたのだ」
「ありがとうございます」
クラリスはやわらかな笑みを浮かべた。
その時、皇太子から声がかかる。
「兄として、最後に妹を抱きしめることを許してくれるか?」
カイレスはためらいながら問いかけた。
「はい。兄としてであれば、皇太子殿下もお許しくださると思います」
カイレスは静かに歩み寄り、そっとクラリスを抱きしめる。
二人は、短く見つめ合った。
「それでは、参ります。カイレス様、お世話になりました」
クラリスはそう言って皇太子たちのもとへ駆けていく。
そして――空へと飛び立った。
カイレスはすぐにフェルネスとエリアスのもとへ駆け寄る。
「叔父上、お話ししたいことがございます。国王陛下のもとへご同行願えますか?」
「行ってらっしゃい。よい報告を待っているわ」
エリアスは微笑んだ。
カイレスはフェルネスを伴い、国王に目通りを願い出た。
「私は、自らの妃としたい方を見つけました。陛下のご許可と、先方への仲介をお願いしたく存じます」
国王は目を丸くする。
フェルネスは、その表情を静かに見守っていた。
「ほう……相手は誰だ? まあ、おおよその見当はついておるが」
「はい。グランディル帝国皇女、クラリス様にございます。どうか、私の妃としてお迎えしたく」
国王は一瞬、安堵したように息をつき、すぐに表情を引き締めた。
「よかろう。すぐに使者を立てる。クラリス皇女であれば申し分ない。年齢も魔力も釣り合っておる。よい縁だ」
「ですが……皇帝陛下が応じてくださるかどうか」
フェルネスが、わずかに眉を寄せる。
「それはやってみなければ分からぬ。断られても何度でも使者を送る。粘るのじゃ。カイレス、そなたの真剣な気持ちを文にしたためるがよい。皇帝の心に届くように」
「ありがとうございます、父上。よろしくお願いいたします」
カイレスが深く頭を下げる。
フェルネスも同時に頭を下げた。
「では、準備に入る。そなたたちは下がって沙汰を待て。カイレス、文が書けたらすぐに持ってきなさい」
二人が退出した後――
国王は、満面の笑みを浮かべていた。
傍らの侍従もまた、その喜びを隠しきれない。
「文ができ次第、グランディル帝国へ使者を出せ」
国王が命じる。
「あの子が帰ってくる……これほど嬉しいことがあるだろうか」
その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
(たとえ断られようとも、諦めぬ)
(この頭でよければ、何度でも下げてやる)
国王は心に誓う。
――そして、一週間も経たぬうちに。
返ってきたのは「承諾」の返事だった。
あまりにあっさりとした結果に、国王は思わず拍子抜けする。
「あやつ……何か裏で手を回しておったのか?」
ふと、フェルネスの顔が脳裏に浮かぶ。
「……まあよい」
こうして――
アストリア王国王太子と、グランディル帝国皇女の婚約は成立した。
こういう話は書いていて楽しいです
前の話が少々暗かったので余計に…
「皇女の帰還」のタイトルは帝国に皇女として行くのと、また母国に帰る両方の意味をもって付けました。
「それだけだと弱い」とチャットGTPに指摘され、副題を必死に考えて「約束の耳飾り」にしました




