ーフェルネスと公爵夫人との会話ー(本編44話の頃の2人になった時の場面)
本編47話「婚約」の中で語られている「カトリーナ嬢の話」のフェルネス側の気持ちを書いています
「当時のドレス等は吹き飛んだのもありますが、無事だったものは取ってあります。クラリスちゃんが着てくれないかと思って」
「体形が違うので・・・どうでしょうか?」
「そうね、クラリスちゃんはちゃんと女性らしい体つきですものね。ロザーリア様ほど背も高くないし」
フェルネスは少し困ったように視線を落とした。
「……私にはドレスの事はわからないので、あまり触れないでください」
「あら、失礼しました。」
夫人は小さく笑って続けた。
「皇太子妃殿下ならどうかしら?かなり背がお高くいらしたわ」
「ご本人に聞いてみてください。私は……どうしてもドレスと言うと、初めて見たエリアス義兄上の姿が頭に浮かんでしまって」
一瞬だけ、二人の間に沈黙が落ちた。
「あの頃に比べるとかなり見られるようになっていますが」
夫人は少しだけ嬉しそうに目を細めた
「あのアルフレッド先生が体を女性に近づけるべく健闘してくださっているの。定期的に来てくださっているのよ」
「そうだったのですか」
フェルネスはそこで、ようやく腑に落ちた。
――あの場にアルフレッドが居た理由。
カイレスがそれを知っていた理由も。
「カイレスは全然気にしてないようですが・・・『義母』とか呼んでいて・・・」
「そうね」
夫人は少し肩をすくめた。
「なぜか、あの子は全然気にしていなかったわね。……うらやましいくらい」
「なぜでしょう……」
二人は顔を見合わせ、どちらからともなく小さく笑った。
その時、フェルネスの脳裏にシャローヌの言葉がよみがえった。
――外見じゃなくて、中身を見てさしあげて。
過去の出来事が、ふと胸をかすめる。
フェルネスは静かに口を開いた。
過去の出来事が頭をかする
「公爵ご夫妻には私までお世話していただき、どう感謝をしたらいいのかわかりません」
フェルネスが言った。
「いいのよ。もしかしたら、あなたは私の義理の甥になっていたのかもしれないのですから」
フェルネスは静かに口を開いた。
夫人はゆっくり首を振った。
「いいのよ」
そして、遠くを見るような目をした。
少しだけ間を置いて、続けた。
「感謝しているのは、私の方です。私の姪は……あなたという存在に救われていたのです」
フェルネスは驚いたように顔を上げた。
「侍女から聞いたの。あなたがそばにいた間、あの子はとても幸せそうだったと」
フェルネスは黙り込んだ。
胸の奥に、重く沈んでいたものが揺れる。
そして、やっと口を開いた。
「……いいえ」
かすかに首を振る。
「結局、あのような結果になってしまいました。私の力不足だったのだと思います」
フェルネスはうつむいた。
夫人の声が、はっきりと響いた。
「違います」
フェルネスが顔を上げる。
「あなたには何の責任もありません」
夫人は真っ直ぐにフェルネスを見ていた。
「一度、ちゃんと話をしなければと思っていました。なぜご自分を責めるのです?」
静かな声だった。
「そんな事をしたら、亡きカトリーナが余計に悲しみます」
フェルネスは唇を噛んだ。
「……しかし」
声が少し低くなる。
「私は、カトリーナ嬢が最期にされた事を止める事ができなかった」
夫人はゆっくりと首を振った。
「決してあなたの責任ではありません。あなたは巻き込まれただけ」
そして、静かに言った。
「あなたが女性を苦手なのは……カトリーナの事があったからなのではないですか?」
フェルネスの目が見開かれた。
「ご存じだったのですか?」
「御存知もなにもないわ」
夫人は少し困ったように笑った。
「私の耳にも入っていますよ。
『エルドリアの第二王子は女性が苦手らしい。若い頃に婚約者に身投げされたせいだ』と」
フェルネスは顔を天井に向け、額に手を当てた。
そして、小さく息を吐いた。
「カトリーナ嬢のせいではありません」
フェルネスは思わず強く言った。
「それだけは……違います」
しばらく沈黙した後、続けた。
「むしろ、カトリーナ嬢は……年若い私を頼りにしてくださり、男として接してくださいました」
遠い記憶を見るような目になる。
「私は……うれしかったのです。本当に」
声が少し掠れた。
「ただ、子供だったので、何もわかっていませんでした。それが……悔やまれます」
そして、静かに言った。
「私にとって……」
フェルネスは言葉を探すように視線を落とした。
「カトリーナ嬢は、本当に『妻』だったのです」
夫人は何も言わなかった。
フェルネスは続けた。
「今もその気持ちは残っています。カトリーナ嬢以外の女性に、ときめきを感じる事はありません」
少し苦笑する。
「私は女性不信というより……妙齢の女性が怖いのです」
「姉が基準になってしまっているのもありますし……」
「それに、子供の頃に見たエリアス義兄上の女装姿の衝撃もあって」
「普通の女性を前にすると、どう接していいのかわからないのです」
夫人は静かにうなずいた。
「そうだったのですね」
胸の奥の重みが、少しだけほどけたような声だった。
「ずっと胸につかえていた物が落ちました。ありがとうフェルネス様」
フェルネスは静かに言った。
「私は本当に、あなた様の義理の甥になれたらよかったと何度思った事か」
夫人は微笑んだ。
「義理の甥ではないけれど……もう充分家族よ」
「ロザーリア様の弟であり、カイレスの成長を支えてくれたあなたは、家族以上の存在です」
フェルネスは少し照れたように笑った。
「ありがとうございます」
そしてぽつりとつぶやいた
「ありがとうございます。私は何度『夫人が自分の母だったら』と思った事か……」
フェルネスは少し視線を落とした。
「エリアス義兄上がうらやましくて、仕方ありませんでした」
そして、小さく付け加える。
「……あなたの息子になりたかった」
夫人は目を細めた。
「うれしいわ」
静かな声だった。
「私も、あなたのような息子がいたらって思っていました」
フェルネスは顔を上げられなかった。
その言葉が、胸の奥に静かに染みていった。
本日から投稿が始まった「外伝」に当時の詳細をかきました
(中間ぐらいに書いているかな?)
そちらもよろしくお願いいたします




