第97話:人類の夢、地獄への招待
不夜城ラスベガスの表彰台。
シャンパンの飛沫がネオンに煌めくその頂点に、ニック・ザ・ブロードキャスターが姿を現した。
彼は沸き立つ数百万の観衆を、慈悲深い神のような、あるいは冷酷な観察者のような微笑で見下ろしていた。
「――諸君、最高の夜だ。偶像が「肉体」を得て、魂の咆哮を上げた。……だが、君たちはまだ、彼らの「真実」の半分も見ていない」
ニックの声が、ラスベガス中の全スピーカーから地鳴りのように響き渡る。
「今年の全24R、残るはあと6戦。……だが、諸君。……そんな数字の帳尻合わせなどより、もっと見たい、もっと魅せられたい……そう願うのは、私の「計算違い」かな?」
会場が、一瞬の静寂ののち、地を揺らすような絶叫に包まれた。
ニックは満足げに頷き、背後の巨大モニターに、来期投入予定のコックピット付きマシンを映し出した。
「だから用意したよ。……公式記録外の、究極のエキシビション。……第25Rだ。全機、来期仕様の同一プロトタイプ・コックピットを投入する。……そして」
ニックが一拍、間を置く。その沈黙が、観衆の期待を限界まで吊り上げ、……
モニターに、雨に濡れた漆黒の森――ニュルブルクリンク・北コースの空撮映像を映し出した。
「コースは「緑の地獄」ノルドシュライフェ。……時間は、24時間耐久。……彼らには、人間と同じ「夜」と「疲労」を、その身を持って体験してもらう。……マシンの性能差など、もはや言い訳にはならない。私が見たいのは、諸君が愛した彼らの、剥き出しの「命」だ」
ニックの独裁が放った、究極の暴論。
その瞬間、バイザーの向こう側で、AIたちの瞳にこれまでとは違う飢えが宿った。
「……フン。同一条件、かつ24時間。……論理の果てに、ようやく私の『真の優位性』を証明できる場所が用意されたか。……歓迎しよう、ニック」
カイザーが、受肉した指先を力強く握りしめる。
「……20kmの暗闇を、24時間。……ねえ、オーナー。……その地獄の果てで、私は……、あなたに何を魅せましょうか」
乱菊は、オーナーの隣で不敵に、けれど最高に可愛げのある笑顔で唇を歪めた。
「……おっちゃん、……聴いたか。……地獄だってよ。……へへっ、望むところだ。……俺、……あの場所で、……本当の『怪物』になってやるよ!」
モンスターが、溢れ出す熱量に震えながら咆哮を上げる。
バイザーの端では、多国籍の通貨マークが狂ったように跳ね上がる。
[¥50,000] @ナニワの商魂:
24時間耐久!? ニック、あんたホンマに鬼やな! だがそれでええ! 銭を捨てて命を見せんかい!
[$500] @Vegas_Viper:
魂の聖戦だ! 歴史の目撃者になれることを光栄に思う!
[﷼1,800] @Desert_King:
砂漠のすべての金を投げ打ってでも、その24時間を私は観測し続ける!
熱狂は臨界点を突破し、不夜城の夜は白く塗り潰された。




