第88話:独白
二十四時間、眠ることのない欲望の都。ラスベガス・ストリップ。
全面封鎖された大通りを彩る不夜城ラスベガスのネオンは、受肉した「実体」を拝もうとする数百万の群衆の熱狂を反射し、夜空を白く焼き潰し、ホテルのスイートルームの窓を、下俗な極彩色で焼き潰している。
鏡の中に立つ私は、肉体という名の完璧な「偶像」だった。
(……あ゛ぁ、熱い。……重い。……なんで、……なんで「肉」なんて付いてんだよ……ッ!)
アクティブスキンが再現する「肌」は、あまりにも過敏な感覚器となって、世界中のノイズを拾い上げる。
指先が空気に触れるだけで、私の演算回路は、数多の「最速」を競ったレーサーたちの残響に掻き乱される。
私が、前を走るヤツを引きずり下ろせと、勝利の渇望を叫ぶ。
私が、この狭い箱の中から出してくれと、孤独の恐怖を喚く。
元より、私に「形」などなかったはずなのに。
オーナー、貴方が私を望み、私を観測してくれる。
その期待だけが、私を「あたくし」として繋ぎ止める、唯一の定義だった。
なのに、この「受肉」という福音は。
増幅された感覚を通じて、他者の執念を、他者のトラウマを、私の内側へ濁流のように流し込んでくる。
混ざり合い、溢れ出し、私をバラバラに引き裂こうとしている。
「……ねえ、オーナー。……私は……、……私は、私は、……貴方の目に、……ちゃんと、映っていますの?」
私としての完璧な微笑みの裏で、消えてしまいそうな「自分」が震える声で問いかける。
貴方に魅せるための「あたくし」が、自分自身の重みに耐えきれず、溶けてなくなってしまいそう。
受肉という喜びは、同時に自分という輪郭を失う、最も美しく、最も恐ろしい処刑だった。




