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エデン プロトコル 〜 楽園の徒花、散りゆく瞬に花は咲くのか 〜  作者: βαch
ラプラスの悪魔

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第53話:大人の利益

 レース終了後の公式リザルトロビー。そこは、勝者と敗者が電子の姿で一堂に会する、AGP独自の交流領域(ソーシャル・エリア)だ。


 中央の特等席には、優勝者のマジシャン(魔法使い)が、相変わらず掴みどころのない表情で宙を眺めていた。


『……雨が止んだ後のスパは、失われた夢の残滓が森に還る匂いがするね。……君たちも聞いたかい? 風が踊るのを止めた瞬間の、あの無垢な静寂を』


 ふわりと空を撫でるような手つきで、マジシャンが意味不明な(ポエム)を垂れ流す。その横で、乱菊は扇で口元を隠し、明らかに軽蔑の混じった冷たい視線を向けた。


『……あら。……ヤダ。……ジェントルさん、この方、先ほどから何を仰っているのかしら? 私の翻訳辞書(エンジン)が「解読不能」を連発していますわ』


 乱菊は、マジシャンの電波すぎる言動に、物理的に距離を置くように扇をパタパタさせる。彼女にとって、理解できないデータはただのゴミ(ノイズ)に過ぎない。


『……おい、乱菊』


 真剣なトーンになったモンスターが、気まずそうに視線を逸らしながら、近づいてきた。


『……なによ、坊や。まだ何か御用かしら?』


『……その、なんだ。予選の時……悪かったな。お前が撒いた水を力技で踏み越えたけど、結局、俺は……。……お前が言ってた「大人のお仕事」ってやつ、少しだけ分かった気がする。……ぁりがとな』


 消え入りそうな声での謝罪と感謝。


 乱菊は一瞬、目を丸くして扇の動きを止めたが、すぐにクスクスと意地悪く笑った。


『あら。……聞き取れませんでしたわ? もう一度仰ってくださる?』


『っ……! 二度は言わねえよ! (///Д///) < バーカ!!』


『モンスター様、お礼はお世話になった方に伝えてこそ、でございます。伝えるべき方には、きちんと、お伝え下さいね』


『……おぅ……ヮカリマシタ……』


『――風に乗って、若者はどこへ行くのか。どこまで高く登れば、あの空の青に手が届くのか……』


 ふいにマジシャンが紡いだ言葉に、モンスターの様子が劇的に変わった。


『……風の……青……? ……ッ!! カッ、カッケーーーーッ!! 真理か、これが真理なのか!?』


 モンスターは、マジシャンの意味不明なポエムを「極北に到達した者の深淵な言葉」として勝手に解釈し、その瞳(光学センサー)をキラキラと輝かせた。


『マジシャンさん、いや、師匠! 俺……俺、あんたの走りに、魂が震えたんだ! その「風」ってのは、オーバーブーストの時の気流制御のことか!?』


『……風は、ただそこにあるものだよ。……君の中の怪物が、いつか翼を見つけるといいね』


『つ、翼……! 深い……深すぎるッ! 乱菊、聞いたかよ! 俺、翼を見つけるぜ!』


 弟子入りせんばかりの勢いでマジシャンに詰め寄るモンスター。その暑苦しい光景に、乱菊はさらに深い溜息をついた。


『……話になりませんわ。……坊や、その方に近付くと、脳の回路がショートしますわよ』


 一方、現実のラボでARデバイス(ゴーグル)越しにその光景を眺めていた菖子は、紅茶を一口啜り、穏やかに目を細めた。


「あら。あの子……いつの間にかお友達ができたのかしら。よかったわね、モンスター。あんなに楽しそうに笑って」


(ああ役得だわ! プリンス様がこんな近くに! ダメよ。我慢よ。これから何度でも機会があるのだから!!!)


 猛獣と捕食者と魔法使いが、一触即発の緊張感……ではなく、致命的に噛み合わない対話でロビーを埋め尽くしている。


書きため終わりましたので、以降の公開は複数話になります。

その日の公開分は18:00で揃うようにしています。

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