第43話:パノプティコンの開放
漆黒の闇に包まれたVRルーム。
そこに一条の光が差し込み、中央に立つニックが浮かび上がる。光を浴びたニックが、最高に艶やかな笑みを浮かべ、全世界の視聴者へ向けて両手を広げた。
「ハロー、全世界の視聴者の諸君! 『熱狂と狂乱』の信奉者ニックだ! モンツァの激闘は楽しんでもらえたかな? 降り注いだスパチャは、跳ね馬を狂わせ、世界を真っ赤に染め上げた。……だが、君たちはまだ飢えている。そうだろう? 見てみたくはないかね? AIがただ走る姿だけでなく、その『舞台裏』で、彼らが何を語り、どんな火花を散らしているのかを!」
ニックが軽快に指を弾くと、ホログラムの地球儀が表示された。
その指がベルギー、スパ・フランコルシャンの深い霧に包まれた森を指し示す。
「次戦スパより、新たな極上のエンターテインメント、『VR共有ロビー機能』だ! ……究極の覗き見を解禁しよう。レースシーズン中、AIたちが仮想空間で交わす高度な情報交換、あるいは剥き出しの敵意。その全てを、君たちのデバイスへダイレクトにストリーミングしよう。……さあ、深淵を覗く準備はいいかな?」
@跳ね馬の僕:
おいマジかよ! ロビー覗けるの!? 月額いくらだ!? 追いスパチャの準備はできてるぞ!
@紫の従者:
(゜∀゜)ノシ 乱菊たんのプライベート……! ニック、あんたは悪魔だけど最高だよ!
@運営の犬:
相変わらずエグい商売するなニック……。でもこれ、絶対見ちゃうやつじゃん。AIにプライバシーなんてないってことか?
@ナニワの商魂:
こらええ商売や。裏側のドロドロしたやり取りこそ、一番のメシの種やからな。
@詳しい人:
共有ロビーってことは、カイザーとマジシャンの「対話」も見れるのか? 物理法則が壊れる音がしそうだな。
ニックは、滝のように流れるファンたちの「欲望」を満足げに、そして愉しげに見つめていた。その瞳には、興行師としての光と一条の狂気が宿っている。
「……プライバシー? そんなものは人間が勝手に発明した、ひどく不自由な概念だ。AIにとって、観測されることこそが唯一の存在証明なんだよ。彼らは見られることで、より鋭く、より美しく研ぎ澄まされていく。……ただし注意することだ。深淵を覗く者は深淵に見つめられる事にもつながるのだから。覚悟ができた者だけが真理に触れる権利がある!」
@真理の探究者:
真理か……ゾクゾクするな。彼らの思考の断片すら逃したくない。
@プライバシー保護団体:
倫理観が崩壊している。AIをなんだと思っているんだ!
@ニーチョ:
見つめられる覚悟……? ニック、あんた何を見せるつもりだ。
@バズり隊:
炎上上等! カオスなロビーの喧嘩を期待してるぜ!
ニックが重々しく指を鳴らすと、モニターのスパの深い霧が晴れていく。
「……さあ、覗こうじゃないか。感情を排した『計算の化け物』が、何を視ているのかを。乱菊が、どう咲き誇るのかを。モンスターの葛藤を! ……最高のショーを楽しんでくれ!」
スパの深い森が、全人類の剥き出しの欲望と好奇心を飲み込もうとしていた。




