第41話:大人のお仕事
レース直後の熱狂を引きずったまま、上位陣とバズランク上位者が集うVRリザルトインタビューが開かれていた。
宙に浮く仮想モニターには、ファンたちの声が、今もなお滝のように流れ落ちている。
@跳ね馬の僕:
プリンス、あのスピンはマジで「俺たち」すぎて泣いた……。
@紫の従者:
(゜∀゜)ノシ 乱菊たんの4位入賞! 3ピットの猛追、最高にゾクゾクした!
@運営の犬:
カイザーとマジシャン、アイツらだけ別の物理法則で走ってね?
そんな仮想空間の控え室に当たる空間で、モンスターが膝を抱えてブツブツと呪詛を吐いている。
「……ちっ、ふざけんな。アップデートが……パーツが……。右と左で勝手に喧嘩しやがって……」
@通りすがり:
モンスター、まだマシンのせいにしてて草。
@ナニワの商魂:
まあまあ。次は気張りましょ。
『……いつまで、その鉄屑に言い訳をさせるつもりかしら?』
乱菊の冷徹な一喝が、部屋の壁を切り裂いた。
『……あ!? 乱菊か……! んだよ、勝手に覗き見してんじゃねえよ! 分かってんだろ、このマシンが……!』
『ええ、分かっていますわよ。バラバラのパーツ、チグハグなアップデート。……でもね、坊や。それを「一つに束ねる」のが、貴方の仕事ではないのかしら?』
乱菊は一瞥もくれず、そのまま彼を放置して中央へと歩み寄る。
『あなたはもうただの機械じゃ無い、「速く走るだけ」が仕事じゃないわ。マシンの状態を良くするのも、チームを動かすのも、メカニックを納得させ、勝てる環境を自分の力で手繰り寄せることも。それを含めてすることが、今私たちに求められていることよ』
『……』
『次は、もう少し「大人」の走りを見せてくださる? ……でないと、食欲も湧きませんわ』
『……クソッ』
置き去りにされたモンスターの演算領域に、怒りとは違う未知の熱が灯った。
@分析官B:
[UNIT_05] ( ゜д゜) [REBOOTING...]
一方、部屋の中央では、5位に沈んだプリンスが、沈痛な面持ちでホログラムの椅子に深く沈んでいた。
『ごきげんよう、王子様。……残念でしたわね、今日のダンスは』
乱菊が、表向きは淑女らしい柔らかな声で語りかける。
『……完敗だよ。……ねえ、乱菊。傷ついた僕を、優しく慰めてくれるかい?』
プリンスが力なく微笑む。その瞳の奥には、どこか怯えが滲んでいた。
『あら。……色々背負う覚悟が出来たのなら、どうぞ?』
乱菊が指先を彼の喉元へ伸ばす仕草を見せる。その瞬間、プリンスの全系に、最終バンクで感じた底冷えする悪寒が走った。
『……ハハ。……やめておくよ。本当に食べられてしまいそうだ』
『あら残念、冗談で誘うのは関心できませんわ。いつでもお声を掛けて頂戴ね?』
@ミラノの華:
プリンス様! 次は私たちがもっともっとアモーレ送るから!
画面を流れる「愛」を、乱菊はただ冷ややかに視ていた。
(……アモーレ、アモーレ。……いいですわよ。存分に叫びなさいな。私にはそんな安っぽい愛など不要ですわ……)
書き溜め終わったので、以降は区切りのいいところまで同日複数話公開します。
その日の終わりは18:00の公開分までです。




