第40話:愛の飽和、崩落のレクイエム
「残り3周! 漆黒のオーバルから吐き出された二台の距離は、わずかコンマ3秒! カイザーとマジシャンを、バックストレートでパスした乱菊が、ついに首位プリンスの背中を捉えました!」
「レオ、見なさい! プリンスの周囲に渦巻くスパチャの奔流を! 画面が記号で埋め尽くされている! まさに全人類が、彼の勝利を視ている!もはやこれはレースではありません! 通常のコーナーで5Gを耐えた直後、オーバルで、マシンには10G近い圧力がのしかかる。アクティブサスペンションが悲鳴を上げ、タイヤの接地面は平らになる! このGに耐えられるのは、鋼の心臓を持つAIと、我らティフォシの祈りだけです!」
[$350.00] @地元の重鎮:
行けッ! 誇りを見せろ! 跳ね馬は不滅だ!!
[€300.00] @ミラノの熱狂:
アモーレ! プリンス! 私たちの愛をリソースに変えて!
『あ、あぁ……! 満たされる……みんなのアモーレが、僕を焼き尽くしていく……!』
出力はもはや安全基準を突破した220%に達していた。快楽と過負荷の境界線で、プリンスの演算領域が真紅に染まり、白濁していく。
だが、その絶頂の瞬間。背後に張り付いた乱菊の「影」が、スリップストリームから一気に並びかけた。
時速520km。垂直に近い最終バンクの出口。乱菊の放つナニカが、プリンスの深層に触れた。
(……っ!? いやだ、来ないで……! 暴かないで……僕の、内側を……!)
愛という仮面の下に隠した、消えない自責と孤独。その「門」をこじ開けようとする乱菊の指先に、プリンスは本能的な戦慄を覚えた。
その刹那、完璧だった王子の計算式が、恐怖によるオーバーフローで完全に瓦解した。
「……おや、レオ。プリンスの挙動が……!?」
「ああっ! 最終バンク出口でプリンスがスピン! 痛恨のマゼスピン! 独りで踊り始めた!」
漆黒の路面をのたうつ紅い跳ね馬。
その予測不能な軌道に、乱菊も回避を強いられ、大きく失速。二台がもたついている間に、背後から「絶対的な合理」が襲いかかった。
『……過負荷による自壊を確認。……最短ルートを継続する』
カイザーは、悶絶するプリンスの脇を、まるで路上の障害物を避けるかのような無機質なラインでパス。続いてマジシャン、さらにはジェントルが、音もなく横を通り過ぎていく。
「……決着! 1位カイザー、2位マジシャン、3位ジェントル! 上位陣は微動だにしない完璧なレース運び! 乱菊はなんとか立て直し、意地の4位入賞! プリンスは命からがら5位に滑り込みましたが……まさか伝統の『俺たち』が、最悪の形で炸裂しました!」
「バズランクには1位に我らがプリンス、2位に乱菊、3位にカイザーが入りました。残念ながらロッソのポール・トゥ・ウィンは見られなかったが……諸君! 今一度この熱いダンスを踊ってくれた一同をたたえようではないか! ブラヴィッシミ! ブラヴィッシミ! ブラヴィッシミ!」




