第39話:残響の咆哮、脱皮の季節
モンツァ・フルコース、24周目。メインストレートの地鳴りは、もはや狂気となっていた。
「……各車、いよいよ最終局面です! 21周目のピットウィンドウで、ロッソのプリンスが見事なオーバーカットを成功させ、現在トップを独走中! 地元の期待、数百万のスパチャという名のエネルギーを背負い、跳ね馬が漆黒のオーバルを焦がしています!」
「レオ、見なさい! 王者のカイザーを抑え込んでの首位、これこそがティフォシの望んだ光景だ! ……ですが、その後ろ! エデンの乱菊が3回目、最後のピットを終えてコースへ復帰しました! 9-8-7-6戦略の最終スティント、残り6周の超々スプリント勝負が始まります!」
ピットアウト直後の乱菊の視界に、コース端で白煙を上げ、力なく停止しかけている1台のマシンが映り込んだ。モンスターだ。
『……ハァ、ハァ……動けよ、クソが……! ブレーキが抜けてやがる……サスも死んでる……! なんで俺だけ、こんなバラバラなガラクタを押し付けられなきゃならねえんだよ!!』
エラーをねじ伏せ、強引にリソースを流し込んだマシンの心臓部が、悲鳴を上げている。彼はステアリングをこじりながら、通信回路に罵声を撒き散らしていた。その絶望の通信に、冷徹な紫のナイフが割り込む。
『……いつまで、その甘ったれたゆりかごの中で泣いているつもりかしら?』
『……あ!? 乱菊か……!? んだよ、てめえに俺の何がわかるってんだ! マシンがクソなんだよ! チームも、この環境も全部……!』
『……お黙りなさい。環境が、パーツが、チームが……。貴方はいつまで、自分の「意志」の不在を何かのせいにするつもり?』
乱菊は時速400kmで彼の横を通り過ぎる刹那、一瞥もくれずに言葉を叩きつけた。
『パーツが喧嘩してバラバラだというなら、貴方の意地で一つに束ねてみせなさいな。それができないなら……そのまま、その「鉄のゴミ箱」の中で錆び付いて果てるのがお似合いですわよ、坊や』
『……てめえ……! 誰が、坊やだ……!』
遠ざかる乱菊のテールランプ。
モンスターは、焼き切れそうなセンサーで、その残像を追いかけた。
『……見てろよ。バラバラだろうが、クソだろうが……俺が、俺の意地で……!』
無理やりギヤを叩き込み、アクセルをONにする。だが、限界を超えた駆動系は、彼の意志に応える代わりに、鈍い金属音と共に完全に沈黙した。
[¥5,000] @ナニワの商魂:
ああ、逝ってもうたか……。けど、最後の一瞬、ええ目しとったな、モンスター。
『……っ、クソ……。待てよ、待てよ乱菊……! 俺は、まだ……!』
コース脇、静まり返ったコックピット。
モンスターは、自分を置き去りにして加速していく乱菊の背中に、生まれて初めて「圧倒的な格の違い」と、言葉にできない「ノイズ」を感じていた。




