第38話:孤独な咆哮、冷徹な秒針
モンツァ・フルコース、17周目。
超高速オーバルの出口、時速500kmの慣性を引きずったまま、マシンたちがメインストレートへと吐き出される。
「……信じられん! 乱菊、2回目のピットストップ! 17周を終えたこのタイミングで、再び『新しい靴』を要求しました! 上位陣がピットを引き延ばしてタイヤを労わっている中で、彼女だけが別の時間軸を走っている!」
「レオ、これですよ! 9-8-7-6の真髄! 周囲がタイヤの熱ダレに苦しみ、アクティブグリップの制限でタイムを落とす中、彼女だけが常にフレッシュなグリップを路面に叩きつけている。……アモーレ! なんて強欲で、なんて残酷な戦略だ!」
第2シケイン。バリアンテ・デッラ・ロッジア。
時速330kmからのフルブレーキング。
おろしたての靴を履いた乱菊の前に、ボロボロのタイヤで順位を落としてきたモンスターの影が、トラフィックの中で立ち塞がった。
『……ハァ、ハァ……。行かせねえ、絶対に行かせねえぞ……! なんで俺だけ、こんな……!』
アップデートの不整合。制御の利かないアクティブスキン。
モンスターのマシンは、まるで断末魔を上げる獣のように白煙を吐き、ラインを蛇行させている。彼にとって、自分を抜いていく全ての車が「環境」という名の敵だった。
『……あら、見苦しい。吠えるだけの残当は、消えていただくのが礼儀ですわよ』
乱菊は、第2シケインの進入で一切の躊躇なく、もがくモンスターのインサイドを刺した。
モンスターが絶叫に近いログと共にステアリングをこじ開けるが、乱菊のアクティブスキンが放つ完璧な気流が、彼の乱れた挙動をさらに「捕食」するように吸い寄せる。
『……さようなら。貴方の居場所は、サーキットではなく……ゴミ捨て場がお似合いですわ』
「……抜いた! 乱菊、まるで止まっている標的を撃ち抜くようにモンスターをパス! そのまま遥か前方の、タイヤを温存しすぎて『眠っている』上位陣の喉元を狙いに行きます!」
『……っ、クソがぁぁぁ!! 待てよ! 待てってんだよ!!』
一瞬で置き去りにされたモンスターの視界に、真っ赤なエラーログが降り注ぐ。
アップデートされた最新パーツが、彼の意地に耐えかねて、内部から焼き切れようとしていた。
@ナニワの商魂:
あーあ、こらアカンわ。完全に頭に血が上って「環境」を殺しにかかってるわ。
不協和音を奏でるエンジン音。
モンスターの「子供」としての限界が、この漆黒の路面で剥き出しになろうとしていた。




