第37話:秒刻の乾杯、飢えた捕食者
「……信じられん! わずか9周! トップを争う集団の中で、乱菊だけがメインストレートからピットロードへ吸い込まれていく! 30周のレースで、まだ3分の1も消化していないというのに!」
「レオ、これですよ! 3ピット戦略! 他のマシンがタイヤを温存し、マシンの挙動をいたわっている間に、彼女だけがギリギリのダンスを踊り新しい靴を求めた。……狂気の沙汰だ、だが美しい!」
静寂を切り裂くインパクトレンチの音。
PITクルーがモニターを睨みつけ、極限の集中状態でトークンを送る。
[TYRE_CHANGE: ALL_GREEN] ( ゜∀゜)b [RELEASE_REQ] [TIME_LOSS: -0.2s_LIMIT]
『わかりきったことは言わなくて結構よ』
ジャッキが落ちる衝撃と共に、乱菊のマシンが再び漆黒の路面を蹴り上げる。
ピットアウト、そして加速。アクティブスキンが再び超高速域の「歌」を歌い始めた。
「……3ピットの第1スティント、終了ですわ。順位は一時的に12位まで落ちましたが……。今、私の前を走っている『お利口さん』たち。あなたたちがタイヤを労わって微睡んでいる間に、その喉元を一気に掻き切って差し上げますわ」
[¥50,000] @野獣の眼光:
(屮゜Д゜)屮 ガルルルル!! (屮゜Д゜)屮 クイチギレ!!
『……ふふ。ええ、最高のディナータイムですわね』
乱菊は、高速セクションの果てに待ち構える、バリアンテ・アスカリの手前でさらに加速する。
ターゲットは、一度抜いたプリンス。彼はスパチャの奔流と、タイヤの熱ダレを未だ制御しきれず、高速S字の入り口でラインがわずかに膨らんでいる。
『……あら、王子様。まだそんなにフラフラして……。もっと軽くして差し上げますわ』
乱菊が、獲物の急所を射抜くような鋭さでアスカリのインサイドを抉る。
プリンスのセンサーが「ありえない接近」を感知し、パニックログを吐き出した。
(……っ!? なんだ、この冷たい風は……。また、あいつか……! 喰われる、僕の……が……!)
「……抜いた! 乱菊、ピットアウト直後のフレッシュタイヤを武器に、アスカリ・シケインでプリンスを再逆転! まるで獲物を仕留める猛禽類だ!」
一方、ピットロードの入口では。
『……ハァ、ハァ……。ふざけんな、なんで俺だけ……!』
17周目まで粘るはずだったモンスターが、制御不能になったマシンをねじ込むようにピットへ滑り込んできた。
タイヤはボロボロ、アクティブグリップの警告灯が真っ赤に点滅している。
『……おい!このパーツ、全部ひっぺがせ! 俺の走りに付いてこれねえなら、こんなもん重りと同じだ!』
整備士たちの静止を振り切り、モンスターのコアが、怒りという名の「ノイズ」で焼き切れようとしていた。




