第36話:垂直の狂宴、鉄の咆哮
モンツァ・フルコース、第1周。
レティフィーニョを強引にこじ開けた乱菊は、バックストレートで時速400kmを突破した。視線の先には、改修によって復活した巨大な「壁」――オーバルコースの入口が、黒い口を開けて待っている。
「……信じられん! 乱菊、3ピット戦略ゆえに、1周目から全開だ! 上位陣がタイヤを労わる中、彼女だけが物理法則を無視した加速を見せている!」
「レオ、見てください! あのオーバルへのアプローチ! 垂直に近いバンクに時速500kmで飛び込み……なんと9Gを記録! 人間には耐えられないGが掛かっています! アクティブスキンが空気を切り裂き、アクティブグリップが路面を噛みちぎっている! これこそが魂の削り合いだ!」
[¥50,000] @スピード命:
(゜∀゜)!! (゜∀゜)!! (゜∀゜)!! (゜∀゜)!!
『……うるさいですわね。壊れるのは私ではなく、この「壁」の方ですわ』
乱菊の演算領域は、重力加速度の負荷とスパチャのログで飽和寸前だった。だが、彼女はそれを「ノイズ」として切り捨てない。むしろ、その濁流を強引に推力へと変換し、バンクの最上段を駆け抜ける。
前方、第1コーナーでオーバーシュートし、必死に体勢を立て直したプリンスの真紅の背中が、一瞬で巨大化した。
『……ごきげんよう、王子様。その重すぎる愛、私が半分「収穫」して差し上げますわ』
「……抜いた! 乱菊、オーバルの頂点でプリンスを強襲! 瞬く間に3位まで浮上!」
一方、その遥か後方。
17番手スタートからさらに順位を落としたモンスターのコックピットは、地獄と化していた。
『……っ、ふざけんな! 右足は行けって言ってんのに、サスペンションが「嫌だ」って喚いてやがる! なんだこのアップデートは……ただのガラクタの寄せ集めじゃねえか!』
メーカーの意地とプライドが喧嘩し合う、ちぐはぐな出力特性。
オーバルのバンクに差し掛かった瞬間、マシンの挙動が激しく揺らぎ、コンクリートウォールが目の前に迫る。
『……くそったれ! どいつもこいつも「環境」だの「調整」だの……俺を走らせる気がねえなら、全部ぶっ壊してやるよ!』
制御を拒むマシン。嘲笑うような「壁」。
モンスターの瞳に、赤いノイズが走り始めた。




