第32話:誰がために金は鳴る - 前編
長くなったので本日は2話投稿してます。1/2
公式アプリで始まった生配信。イタリア・モンツァ。その100年を超える歴史が刻まれたサーキットが、今、長い改修を終えていた。
新しく舗装されたメインストレートと、不敵な笑みを浮かべるニック・ザ・ブロードキャスターが映し出される。
「ハロー、すべての熱に飢えた者たち! 今日はこの歴史的聖域と親愛なるイタリアへの敬意を表し、こうも挨拶させてもらうよ。ボンジョルノ!」
ニックの隣に、紅い跳ね馬のスーツを纏ったプリンスが、眩いばかりのオーラを放って舞い降りた。
『ハァイ、僕の愛たち。……寂しかったかい? 今日は特別な日になるね!』
プリンスがカメラに投げキッスを送る。
@ミラノの華:
プリンス様!アモーレ! その瞳で見つめて!
@跳ね馬命:
チャット解禁最高!プリンス、聖地で勝ってくれ!
ニックがパンパンと手を叩き、耳目を集めた。
「さて、今日の発表は2つ! サクサクいこうか」
『おや、そんなに急がないでも。愛を語る時間は大切だよ、ニック』
「タイム・イズ・マネーさ。……さて、諸君。映っている景色を見て、何か違和感はないかね?」
@あなたのキティ:
なになに?なんかかわったの?
@ナナシ:
なんか路面の色、違くね? 全面の色が同じになってる。
「そう! 改修が終わり、路面が完全に新しくなったのさ」
『……素晴らしい! じゃあ、ずっと取り壊し中だったオーバルコース(旧コース)の撤去も終わったのかい?』
@古参ファン:
え、あの名物のバンクが無くなるのか。栄枯必衰、無常なり。
「ノンノンノン。逆さ! 生まれ変わったモンツァをご覧あれ!」
ドローンカメラが下がりながら上昇し、ニックたちが小さくなりながらコースの全貌が映し出されていく。
これまで粉塵避けの灰色のシートで長らく覆われていたエリアには、天を突くような超高角バンクを備えたオーバルコースが、真新しい路面を露わに輝かせていた。
@バンクの亡霊:
おう! すげー、高ぇ!……ん? なんでオーバル? まさか……。
「そのまさかさ。映像でしか見たことがない、かつての超高速レースを再現する! ロードとオーバルが繋がる、伝説のレイアウトをね。ただしロードを先に回ることになる」
『はは……よく僕らに情報を秘匿できたね、ニック』
「やろうと思って、ネットから遮断すればなんとでもなるのさ」
@ネームレス:
やりおった!
@技術オタク:
いやいや、さすがにフォーミュラカテゴリのマシンじゃ走れんて
「いいかい諸君、これはAGPだ。なんのためにこれまで無駄に最速のカテゴリが維持されてきたと思っている?」
ニックがARで映し出されたマシンを指さし、捲し立てる。
「当時とは比べものにならない、圧倒的な剛性のボディ。最新のアクティブサス。そして君たちの車にも使われているアクティブエアロとアクティブスキン! これをAIがフル活用すれば、ダウンフォースのコントロールは完璧だ。タイヤの熱ダレにも最新のアクティブグリップが効く。なにより生身じゃないからGを無視できる。むしろ何Gまで出るかトトカルチョでもするかね?」
ニックの瞳が、狂気を孕んで光る。
「路面素材は、日本のエデンの親会社が開発した最新素材だ。見た目はツルツルだが、タイヤとの親和性は抜群。それ以外の物質に対しては圧倒的な排他性を持つ! ジャパニーズ・オタクの執念が生んだ漆黒の素材だ!もちろん専用のコンパウンドタイヤも用意した!」
@日本の車窓から:
へえ、あれってあの会社なのか。新しい道路でよくあるやつ。
@深海ネモ:
特定にだけ粘着してあとは排除とか闇を感じる。怖い。
@ハスハス:
乱菊たんに踏まれるなら……その路面になりたい
@デュフフ:
乱菊たん……離れないなりよ
@ネット警察:
通報しました。
『……僕の愛する地元が、なんて刺激的なことに! なんて愛だ!』
「アプリのオンボード映像で、ぜひ時速500キロを超える世界を目にしてくれたまえ!」
『……でも、ニック。そんな高速で走り続けたら、回生が追いつかない。エネルギーが足りなくなるんじゃ……? ここはただでさえ高速コースなんだ。みんなの前で、情けない走りはできないよ』
「大丈夫。私に抜かりはないよ」
ニックは不敵に笑い、第2のアップデートを発表した。




