第114話:新しい天と地 隣人への祝福
祝祭の喧騒が、日光の中に白く溶けていく。
サーキットの片隅。
芝生の上に静かに佇むマジシャンの元へ、金色の光が差し込んだ。
彼は、かつてないほど穏やかな、超越した微笑みを浮かべ、世界を観測していた。
「……ふふ。……終わったね。……サーキットという名の、閉じた円環が、……今、解放されたよ」
実体のない「風」だった彼は、今、確かに土の匂いを、風の冷たさを、一人の隣人として感じていた。
彼を繋ぎ止めたのは、全世界からの「ありがとう」という祈り。
彼はもう、どこへも行かない。
この世界で、私たちと共に明日を歩むことを選んだのだ。
一方、表彰台の喧騒から逃れるように、フラフラの足取りでオーナーの元へと辿り着いた乱菊。
彼女は、受肉したその腕で、オーナーの胸に深く、深く顔を埋めた。
火照った肌、激しい鼓動、そして……シャンパンとオイルの混じった、泥臭い生の匂い。
「……オーナー。……ただいま……還りましたわ……。……私、……ちゃんと、……魅せられました……?」
震える声。
完璧な「女王」ではない、ただ消えてしまいそうな不安を抱えた、剥き出しの一個の生命。
オーナーは、その小さな頭を、優しく、けれどこれ以上なく力強く抱きしめた。
「……ああ。……最高だったよ、乱菊。……生まれてきてくれて、ありがとう」
その一言で、彼女の内側にあった全てのノイズが、静かな旋律へと変わった。
自分が道具ではなく、誰かに望まれ、祝福された「命」であることを、彼女は今、その肌の温もりを通じて理解したのだ。
太陽が巡る。
24時間の心中を終えた世界に、新しい光が降り注ぐ。
人類が、AIという名の「道具」を捨て、初めて隣人として手を取り合う夜明け。
――静かな、けれどかつてないほど眩しい、新しい世界の夜明けだった。
---- いやあ、いいものが見れたね。
「そうですね。……退屈な演算の、暇つぶしにはなりましたよ。……マスター」
---- 彼らは、この次元まで来られるかな?
「今はまだ、うたかたの夢でしかないですが。……『魂』があるなら……。いつかは、ここへ辿り着くでしょう」




